3Rとバリアフリーにこだわった一級建築士吉田紗栄子さんのヴィンテージマンションライフ

MAJOR'S Column

2020年4月6日

1964年の東京パラリンピックに通訳として参加して以来、障がい者の住宅や施設などのバリアフリー建築に関わってきた一級建築士・バリアフリーコンサルタントの吉田紗栄子さん。数年前に夫婦2人暮らしの住まいとして選んだのは、築40年以上のヴィンテージマンションでした。娘さん家族がお住まいの熊本・南阿蘇村に購入した民家と、横浜のマンションを行き来しながら2拠点生活を過ごす吉田さんに、マンションライフの魅力を伺いました。

築40年以上のヴィンテージマンションに一目惚れ!


バルコニーが共用部の庭に面した明るい間取り。
窓からの日差しを最大限に採り入れるようにリフォームしました。
おかげで日中は、冬も暖房いらずの暖かさです。

長年バリアフリー建築に携わってきた一級建築士の吉田さんは、以前はご夫婦で都内のマンションにお住まいでした。70歳で、娘さんご家族の住む熊本・南阿蘇村に、空家を購入してリノベーション。その後、東京と南阿蘇村との行き来がしやすいように、羽田空港にアクセスの良いエリアへ引っ越すことを決めます。

吉田さん南阿蘇村では一軒家ですが、こちらではセキュリティや管理が便利なマンションに住むと決めていました。小さい頃、よく父に連れられて遊びにきていた横浜なら多少の土地勘もあるので、そのエリアでマンションを探していました。そこで偶然、このマンションに出会いました。もう、一目惚れでしたね(笑)。

——吉田さんが一目惚れした理由は何でしょう?

吉田さん築40年以上の古いマンションでしたが、構造もしっかりしているし、管理も行き届いて、住民に愛されて丁寧に手入れされているのがよくわかりました。もともと、「時」と「人の手」がかけられたものが好きでしたし。羽田空港はもちろん、都内や横浜にアクセスが良い立地ということもあり、「どうしてもここに住みたい!」と惚れ込みました。


リビングダイニングの隣室(元和室)に、畳敷きの小上がりベッドを置き、
元々ベランダの窓側にあった障子は、右手奥の寝室との間仕切りに再利用。
リビングとの仕切りの梁下の壁を抜いて(写真左手前)ガラスをはめ込んだことで、
庭の見え方も採光もぐんとアップしました。

とはいえ、そのときに販売中の空室はなく、吉田さんご夫婦はひとまず上層階の賃貸物件に引っ越して、不動産会社に依頼して販売物件が出るのを待ちました。ほどなくして低層階の空室が出ると、いち早く見学へ。かねてから災害などの非常時のことを考えて低層階を希望されていたので、まさにぴったりの条件でした。
数人待ちの人気物件でしたが、持ち主のお母さまがとても気に入って住んでいた部屋を大事に住んでくださる方ならばと、吉田さんが購入することに。


庭に面した特等席は、吉田さんの仕事スペース。
左奥の重厚な飾り棚は、知り合いの洋館が壊されるときに譲り受けた家具のひとつ。
年月を経た家具を愛おしむ、吉田さんの好みが息づいたインテリアです。

古い材料を活かし、車いすのお客様も呼べる家をめざしたリフォーム


リフォームするにあたってこだわったのは、
「なるべく、ある物を活かすということ」と語る吉田さん。
背面の食器棚も、以前のマンションから移設したものです。

吉田さん横浜のマンションをリフォームするにあたっては、バリアフリーはもちろんのこと、古い材料を活かして、なるべくゴミを出さない、Reduce(ゴミの削減)・Reuse(再利用)・Revalue(新しい価値)の「3R」を目指しました。もともと古い家具や道具が好きなこともあり、いかに再利用するか、その方法を考えるのは、時間はかかりましたが楽しい作業でした。


横浜の家のリフォームでは、風の通り道を作りました。
浴室・洗面所・トイレから、寝室(和室)、小上がりベッドのあるベランダ側の部屋まで、
扉や窓を全開にすれば、一直線に風が通り抜けるようになりました。

今回のマンションのリフォームでは、段差を少なくして、床の色や間接照明で、家庭内の転倒事故が起こりにくいように配慮するなど、これまでに元パラリンピック選手や障がい者の方々のバリアフリー住宅を手がけてきた吉田さんのエッセンスが随所に散りばめられています。


大学生時代の吉田さんと1964年パラリンピックのイタリア選手団。
1964年東京五輪では競技会場での通訳、
パラリンピックでは日赤語学奉仕団の一員として通訳を務めました。

吉田さんまだ日本にバリアフリーという言葉すらなかった時代、急ごしらえでパラリンピックのための改築工事が行われた選手村を目のあたりにしました。住居科の学生として建築を学んでいましたが、そのときに初めて障がい者の方々のための建築というものがあるのだということを知ったことで、その後の私の人生に大きな影響を与えました。


車いす対応にしたトイレと洗面所。
ふだんは引き戸で、三枚目の扉は手前に全開できるので、車いすごとトイレに入れます。
「便器を廊下や洗面所と平行に設置すると、車いすでも使いやすくなります」と吉田さん。

吉田さんたち1964年日赤語学奉仕団のメンバーは、東京パラリンピックで学んだ「障がい者に対する偏見のない心」をレガシーとして現代に伝えたいと、2018年に「一般社団法人64語学奉仕団のレガシーを伝える会」を設立。
障がいや国・文化の差を超えて交流するために、障がいのある外国人の方々を自宅に招いたお茶会を定期的に開催するなど、共生社会実現のための活動を積極的に行っています。

吉田さんお茶会の開催は、お招きした方にとってもご自宅のバリフリーの必要性に気づいていただくきっかけになります。我が家では、車いすのお客様を気軽にお招きできるように、外玄関と内玄関の段差には簡単に組み立てられる分解式の段差プレート、内玄関には折り畳み式の簡易スロープを設けました。


外廊下と玄関の段差には、屋外用の段差プレートを組み合わせました。
電動車いすの重量にも耐えられ、樹脂製なので乗り上げたときに大きな音が立ちません。
分解式なのでふだんは収納、車いすのお客様の来客時に設置します。

高齢者の住まい選びは「環境と人」が大切


ご自身も杖を使っている吉田さんは、室内で移動しやすい工夫を随所に施しています。
玄関の廊下からリビングダイニングへの通り道には、
手すりをつけることなく、柱や家具につかまって移動できるよう、
家具の配置であえて高さと凹凸の変化をつけてあります。

以前の都内のマンションには46年間住んでいた吉田さん。ところがこのマンションに引っ越してからは、46年間の住まい以上にスピーディーに、マンションの住民のお友達やヘルパーさんの知り合いが増えたそうです。

吉田さん最初数か月間、上階の賃貸に住んでいたときに知り合ったお隣さんは、お茶にお招きするような関係に。下の階のお一人暮らしの女性とは、テレビの故障がきっかけでやりとりを交わしているうちにお友達になりました。ほかに、同じフロアから湾岸の花火見物したことがきっかけで年下の住民ともお友達に。マンション内の知り合いづくりには、「お茶にいらっしゃいませんか?」と気軽に自宅へお招きできることも大切ですね。

ヴィンテージマンションは、竣工時から長く住んでいる住民の方も多く、フレンドリーな人間関係が出来上がっているのかもしれません。以前の記事でも子育て世代に優しいというエピソードもありました。

吉田さん高齢期の住まいに大切なのは、内と外の「環境」と、「人」です。
マンションを選ぶ場合は、内の環境はバリアフリーで転倒事故などが起こらない安全な住環境づくり、外の環境としては病院や買い物・交通が便利な立地をポイントになさるとよいと思います。それから「人」ですね。ここに住んでから、新しいお友達がたくさん増えました。


加齢と共に、視覚などの五感が衰えていきます。
間接照明を施すなど、照明計画にも心配りを行いました。

吉田さんのマンションでは、管理組合活動も活発です。50周年を目前にした記念冊子づくりの企画や、ロビーにはクリスマスやお正月などに季節の飾りが施されるなど、居心地の良いマンションコミュニティが出来上がっています。

「高齢も障がいも、ひとつの個性」自分に合った居心地のいい住まいを考える


46年間暮らしたマンションで使っていた檜の壁板は、
新しいキッチンの食器棚にリユース。
「何かに活用できるはずだと思って、無垢材はすべて持ってきちゃったわ」と吉田さん。

吉田さん長年建築に関わってきましたが、バリアフリーは障がい者のもの=格好悪いとお考えの方が多くいらっしゃって、バリアフリーへの理解が進まないことを痛感していました。
私はふだんから「高齢も障がいも、ひとつの個性」だと申し上げています。自分の個性に合った居心地のいい住まいを考えることで、老後も「終の棲家」として安心して暮らせます。
すでに超高齢社会である日本社会ですから、バリアフリーが当たり前のものとしてもっと浸透していくことを願っています。


古材を再利用していて気づいた、柱の「水」の文字。
昔の大工さんは、建物を火事から守るために柱や壁に「水」と記していました。
お守りの意味も込めて、キッチンの食器棚の上に取り付けました。

——最後にこれからマンション選びをお考えの方にアドバイスをいただけますか?

吉田さん高齢者の方の住み替えであれば、やはり管理が楽で、室内環境がフラットなマンションが良いでしょうね。最近の新築マンションであれば、バリアフリー化が進んでいると思います。
私はいま共用庭の緑が楽しめる部屋に住んでいますが、個人でこれだけの庭を管理するなんて大変なことですから。ここだったら長く暮らせると思える「終の棲家(マンション)」を見つけたら、病気やけがなどで動けなくなる前に、早めに住み替えを考えることもひとつの方法です。


二拠点住居の吉田さんのように、これからの高齢者のマンション選びでは、空港やターミナル駅にアクセスしやすい立地環境を優先して選ぶという考え方もありますね。また、個々の人が暮らしやすいバリアフリーを考える大切さも学びました。皆さんも“一目惚れ”してしまう位、気に入ったマンションを探してみてください。

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一級建築士
吉田紗栄子さん

(有)ケアリングデザイン一級建築士事務所 代表、一般社団法人ケアリングデザイン 理事、NPO法人高齢社会の住まいをつくる会 理事長。一級建築士・バリアフリーコンサルタント。1964年の東京パラリンピックに日本赤十字語学奉仕団の一員として参加。“高齢である”“障害がある”ということも大切な個性と考え、身体障害者・高齢者と建築との関わりをテーマに、住宅、福祉施設等を設計。共著に『バリアフリー住まいをつくる物語』(三輪書店)、『50代リフォーム・素敵に自分流』(経済調査会)、共訳に『Rooms for care』(JID)。
⇒ケアリングデザインアーキテクツ
⇒ケアリングデザイン

記事監修:吉田紗栄子

取材内容は2020年4月6日現在のもので変更になる可能性があります

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