時が経てば経つほど魅力が増していく、そんなマンションがあるようです。
今回ご紹介する、築34年のマンション「パークシティ溝の口」は、立地特性だけでなく、住民の積極的なコミュニティづくりや、同じ地域にあるマンションとのヨコの連携が魅力のよう。
その様々な取り組み内容や、活動結果の一部をご紹介します。
約57,000㎡の広大な敷地にゆとりある12棟が配置された「パークシティ溝の口」
「パークシティ溝の口」の総合案内図。広大な敷地には、スーパーマーケット、福祉施設、そして豊かな緑に溢れています。中央の公開空地では、さまざまなイベントが催されています。
「パークシティ溝の口」は、人気の「二子玉川」駅の隣(東急大井町線利用の場合)、渋谷から急行で14分の「溝の口」駅から徒歩5分の好立地にある大規模マンションです。
1982年から1984年のあいだ5期にわたって竣工した高層棟5棟、低層棟7棟の合計12棟・全1,103戸の「パークシティ溝の口」は、緑溢れる約57,000㎡の広大な敷地にゆとりを持って配置されており、築34年のいまも人気のマンションです。
しかし、「パークシティ溝の口」の人気の理由は、立地特性やマンションの仕様というハード面だけに起因しているのではないようです。このマンションに住みたい!と思わせるようなコミュニティ活動が活発なことにも大きな要因があります。
「パークシティ溝の口」のコミュニティ活動について、ホームページ委員会をはじめ、管理組合・自治会活動に寄与してきた山本美賢さんにお話を伺いました。
山本さん2011年に「パークシティ溝の口」へ引っ越してきてすぐ、不在投票で理事に選ばれまして(笑)。当時私は49歳だったのですが、ちょうど同じ時期に選ばれた理事さんたちが、たまたま同年代かそれより少し上の世代で、しかもマスコミ系や商社・不動産・金融系の仕事をしている働き盛りの人ばかり。私はホームページ制作を行う会社を経営していましたので、それぞれが自分たちの得意な部分で、マンションコミュニティに関わるようになりはじめました。
2011年当時の「パークシティ溝の口」は、60歳以上の世帯主が65%以上。建物の老朽化と、居住者の高齢化という“2つの老い”に直面していた状況でした。働き盛りの壮年世代の理事たちの“新たな血”が投入されたことで、これまで管理組合を支えてきたシニア世代の理事たちとの間で、いい意味での融合が起こり、俄然マンションが活気づき始めたのでした。
ホームページで、マンションコミュニティの縁の下の力持ち“パークの女神たち”を取り上げる!
毎月8,500PVのアクセスがあるという、「パークシティ溝の口」管理組合の公式ホームページ。住民のための情報はパスワード保護されていますが、住民でなくても閲覧できる記事や施設プロフィールなどの情報もあります。
壮年世代の理事達はそれぞれの職能を活かして、管理組合活動に寄与し始めました。山本さんは、管理組合のホームページ委員会を立ち上げて、公式ホームページから住民や外部に向けて、さまざまな情報発信をしていくようになりました。
山本さん管理組合活動を通して、さまざまな住民が縁の下の力持ち的役割を担って「パークシティ溝の口」を支えてくれていることを知りました。建築業界をリタイアした住民が率先して修繕専門委員会を設立して内容の検討・比較をしてくれていたり、公開空地の植栽の緑や花のボランティアグループがいたり、小学校の通学路で30数年間ずっと緑の旗を持って子ども達を見守ってくださっていた女性達がいらっしゃったり。すごいですよね。
そうした貢献をしてくださっている皆さんを一人ひとり取材して、ホームページで紹介。インターネットが見られない住民にはプリントアウトを差し上げて、情報共有を図りました。その後、毎年の総会で「住民表彰会」も行うようになって、縁の下の力持ちの住民を表彰するまでになりました。
定期総会で行われた住民表彰会の様子がホームページに公開されています。このとき表彰されたのは、美化・コミュニティ形成と修繕委員会で長年献身的な活動をされてきた「パークのおかあさん」と、敷地内の花と緑を守ってきた園芸の会のメンバー「パークの女神たち」。どちらも、彼女たちの取材記事から名付けられた愛称です。マンションコミュニティを支える、縁の下の力持ちたちが、こうやって認められるのは、とてもいいことですね。
マンションを陰で支えてくれている人にスポットを当てて情報を共有したことで、マンション全体の一体感が生まれたのではないでしょうか。「住民表彰会」はあまり他に聞いたことがない、素敵な活動です。
また、「パークシティ溝の口」では、カフェのように気軽な住民交流の場として「ぱーくCafe」を設置。トークショーや、世田谷の人気オーガニック八百屋による野菜の販売とジャズ演奏のコラボ「八百屋ジャズ」、クリスマス、秋祭りイベントなどと連携して企画・開催することで、どんどんマンションコミュニティが育まれています。さまざまなメディアでこれらコミュニティ活動が紹介されると、外部のメディアから内部の活動を知る住民も増え、内からも外からもいい相乗効果も生まれてきました。
山本さん敷地内に緑が豊富だと、部屋の日当たりを塞いだり落ち葉が多すぎたりという問題も多かったので、じゃあセンパイマンションの事例に学ぼう!ということで、池袋の「サンシティ」のグリーンボランティアにマンションの植栽活動のお話を伺いに行ったり、兵庫県にある有名な防災マンション「加古川グリーンシティ」へ自費で視察に行ったり、どんどん他のセンパイマンションの事例を学ぶようにしました。
この行動力は、やはり壮年世代の理事ならでは! 有名なセンパイマンションのいい事例をどんどん取り入れていこうという意欲が、さらにヨコのマンションのつながりにも発展していきます。
センパイマンション、コウハイマンション、築年数の異なるマンション同士のおつきあい
同じ小学校区である久本町の人口40%を占める、3つの大型集合住宅の世代の違いと知見共有を図式化した資料。住民の世代によって、マンションの得意な分野が分かれています。(資料提供:「パークシティ溝の口」)
「パークシティ溝の口」の同じ小学校区には、築年数の異なる2つのマンションがありました。「メイフェアパークス溝の口」は、築17年・547戸・40〜50代中心、「ザ・タワー&パークス田園都市溝の口」は築10年・648戸・30〜40代の子育て世代中心。それぞれのマンションの築年数が異なることで、住民の世代も少しずつ異なっています。これら3つのマンションの3つの世代がうまく連携することで、多世代が交流する元気な地域コミュニティが生まれました。
山本さん町内会やPTAの活動を通して、徐々にお互いのマンションのことを知り、交流が育まれてきました。餅つきや焼き鳥の道具の貸し借り、修繕計画やマンション管理の知見共有、それぞれのマンションが不足しているモノ・コト・ヒトを提供しあって、お互いを助け合ってきました。3つのご近所マンション同士のヨコのつながりを培っているうちに、地域コミュニティ全体も盛り上がることに、お互いが気づいたのです。
「パークシティ溝の口」の公開空地で行われた3マンション合同の「秋祭り」は、大成功。
マンションだけでなく、地域の人々も巻き込んだ地域イベントとなりました。
センパイマンション、コウハイマンション、築年数の異なるマンション同士がつながることで、こんなにも豊かな地域コミュニティが生まれるのかと、目から鱗です。 それぞれのマンションの住民に、3つのマンションのヨコのつながりが生み出した変化について語っていただきました。
メイフェアパークス(築17年)
溝口健志さん(45歳)
マンション同士のつながりができてから、古くからの地元住民に比べ「新参者」に見られがちなマンション住人達がつながりを持つことで、 新旧を意識しない「地域住民」としてお互いを見られるようになりました。我々も、「地元意識」を持つことが大切だと改めて実感しました。
「通勤・通学のための寝るためだけのマンション」から「生涯生活するためのマンション」への変化。それに伴うマンション単位から地域社会単位への「地元意識」の広がり。最終的には、豊かな生活を送る「地元のマンション」になることを望んでいます。
タワー&パークス(築10年)
吉屋智子さん(2児の母)
これまで10年間、防災についてはほとんど何も備えてこなかった管理組合が、他マンションの事例の情報を集めるなど、とうとう本腰をいれて対策を始めた様子です。防災担当理事が、ご近所マンションイベントのスタッフと小学校のPTA活動を通じて既知の間柄であり、さっそくヨコのつながりの輪に入ってくれました。マンション内の防災対策が、今年一年でとても前進しそうな予感がしています。
街のハード面が大きく変容することはなくても、ソフト面なら住民の連携や新しい発想でどんどん変えていけます。それが街の魅力につながっていき、他県の人からも認知されるようになったら最高だと思います。
パークシティ溝の口(築34年)
曽根正彦さん(44歳)
他のマンションのコミュニティを見ることで、自分たちのマンションのコミュニティを客観的に捉えることができるようになりました。他マンションの良いところを取り入れようというだけでなく、自分たちのマンションの良いところを見てもらいたいという意識も生まれました。管理組合や自治会を運営する上での楽しさや難しさなども共有でき、それを共有する楽しい仲間が増えたことが一番の財産だと思います。世代の異なるマンションがつながることで、一定の世代に偏ることないコミュニティが形成され、常に安定的な管理運営が可能になると思います。
今年の「防災フェス」も大成功! ヨコのつながりはマンションから町内会へ、地域全体へ
3つのマンション連携イベントで、今年の春には「防災フェス」を開催。みんなの関心事である防災について、ゆるく楽しみながら学ぼうという主旨の「防災フェス」もまた、住民の楽しい手作りでした。
ヨコのつながりは、3つのマンション連携から、さらに久本町の町内会とのつながりへと発展。町内会からマンションで行う「流しそうめん」の道具を借りたり、マンション住民の一部が協力して、町内会住民の高齢化により実施できなくなっていた御神輿などの地元のお祭りが復活したりするなど、マンションと町内会の交流が、久本町という地域の活性化にも一役買っています。
地域に開かれたコミュニティづくりは、どんどんいい効果を生み出しながら、それぞれのマンションの魅力向上や町内だけにとどまらず、「溝の口」全体の街の魅力をも高めてくれているようです。
これからの街全体の取り組みの活性化についても、ますます期待できそうです。
1982年から1984年までにかけて5期にわたって竣工された、12棟、地上15階建て、1,103戸の大規模マンション。東急田園都市線「溝の口」駅、JR南武線「武蔵溝ノ口」駅より徒歩5分。
マンションの資産価値は、立地や構造のハード面だけでなく、「マンションや街を少しでもよくしたい」と願う住民の努力や熱意によっても高められていくものだということがよくわかりました。しかも、住民みんなが楽しいことが、マンションをよくしていくのですからこんなに嬉しいことはありませんね。マンションのヨコのつながりや地域貢献は、これからのマンションライフのトレンドになっていくのではないでしょうか。
取材内容は2016年8月30日現在のもので変更になる可能性があります