モータージャーナリスト御堀直嗣さんに聞く、EV(電気自動車)の魅力とマンションでの可能性

MAJOR'S Column

2023年8月15日

政府が自動車の電動化に取り組む現在、新築分譲マンションも進化しています。ここ数年で、EV(電気自動車)充電付き駐車場を設置した新築分譲マンションが増えてきました。しかしまだまだEVを所有する人自体が少ないのが現状です。今回は、モータージャーナリストの御堀直嗣さんに、EVの魅力やマンションでの可能性についてお話を伺いました。

2035年を見据えて、増えるマンションのEV充電付駐車場


モータージャーナリスト 御堀直嗣(みほり なおつぐ)さんにお話を伺いました。
御堀さんは、一般社団法人日本EVクラブ副代表として、
EVを始めとしたエコカーの普及活動も行っています。

政府は、2035年までに新車販売で電動車100%の実現目標を掲げ、その普及を推進しています。東京都では、都内で新車販売される乗用車の100%を非ガソリン化とする、ZEV(ゼロエミッション車)普及目標を掲げています。その目標推進のために、東京都は新築マンションへのEV充電器設置を義務づけた改正環境確保条例を可決し、2025年4月から施行します。
このようにEV推進の枠組みがどんどん進んでいく社会的醸成を考えると、EV充電付き駐車場はこれからのマンション選びの大きな要素になっていくと思われます。
しかしまだまだEVを所有している人は多くありません。今回お話を伺う、モータージャーナリストの御堀直嗣さんは、エコカー全般に詳しく、実際にご自身もEVを所有してEVライフを楽しんでいらっしゃいます。

※電気エネルギーを車の動力のすべてまたは一部として使って走行する自動車のこと。電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV、PHV)、ハイブリッド車(HEV、HV)、燃料電池車(FCEV、FCV)などがある。

——御堀さんがEVやエコカーなどに興味を持つようになった理由は何ですか?

御堀さんモータージャーナリストを30年以上続ける中で、自動車が気候変動問題に与える影響の大きさを痛感するようになりました。ガソリンを使うことで、環境に負荷をかけている。エンジンをアイドリングさせたまま自動車を止めている人がまだいます。そのように我々一人ひとりが、環境問題の加害者でもあります。環境負荷を減らすため、EVに乗り換えられるなら、明日からでもそうした方がいいと個人的には考えています。


これからのEV普及の鍵を握るのは、自宅における充電設備です。

御堀さんとはいえ、自宅に充電設備がなければ、普及も何もありません。EVの充電は、スマートフォンと同様、家庭でするのが基本です。自分が寝ている間にEV充電を満タンにした上で、さらに公共の充電スタンドが普及することが望ましいです。
「自宅にEV充電器があることは、自宅にトイレがあるように必要不可欠なもの。公共の充電スタンドは、公共トイレのようなもの」と、ある人が言っていましたが、まさにその通り。自宅におけるEV充電器は、必要最低限なライフライン的存在になっていくはずです。現在は、「自宅にトイレ=EV充電がない」状態。EV普及の推進には、この点を早急に解決していく必要があります。マンションのデベロッパー各社がEV充電付き駐車場の普及に向けてシフトしつつあるのは、非常に喜ばしいことです。

EVの最大の魅力は「ストレスなく走れる」こと


御堀さんが所有する、小型電気自動車の日産SAKURA(サクラ)。
軽自動車ならではの小回りの良さと、力強い加速を兼ね備えたモデルです。

——御堀さんは実際にEVオーナーです。乗り心地や使い勝手はいかがですか?

御堀さんEVは自動車メーカー各社が発売していますが、日産のSAKURAは「2022〜2023年カー・オブ・ザ・イヤー」を始め、各賞を受賞した評価の高いEVです。手に入れやすい車両価格、軽自動車+バッテリーEVという組み合わせは、EV普及の可能性を高めたといえます。


「SAKURAは軽自動車ならではの快適さがあります。
EV特有の加速が良くて思い通りに走れるのも魅力です」と御堀さん。

御堀さん環境性能を満たしている点はもちろん、EVの最大の魅力は、一言で言えば「ストレスなく走れること」。ガソリン車ともハイブリッド車とも異なり、アクセルを踏んですぐ、すーっと加速できる気持ち良さは、ぜひ皆さんに体験していただきたいです。運転の意識自体が変わってしまうはずです。アクセルからブレーキへ踏み換えることなく、ワンペダル操作で速度の調整ができる。コツさえつかめば簡単なワンペダルでのEV運転をマスターすれば、ペダル踏み替えを7割ほど減らすことができ、本当にストレスフリーです。安全性の面でも、高齢者や運転に不慣れな方こそ、EVをおすすめしたいですね。


予測充電時間や走行可能距離などがディスプレイで一目でわかります。

御堀さんEVオーナーからは、「スーパーの駐車場でも、ペダルを踏んだ通りにゆっくりと出ていくことができるので安全確認が楽になった」、「高速の合流で流れにすぐ乗れる」などの声をよく聞きます。運転の満足度は、実際に乗車してみないとわからない。物は試しで、ぜひ試乗してみていただきたいですね。


「冬場の暖房は、車内全体を暖めるのではなく、
シートヒーターもうまく活用して、効率的に電力消費を抑えます」(御堀さん)。

マンションのEV充電付き駐車場のメリット


EVの充電ポート。上部が普通充電ポート、下部が急速充電ポート。
満充電時間は、普通充電で約8時間、急速充電で約40分となります。
※30kW以上の急速充電器で充電量80%までの充電時間

御堀さん普通/急速どちらも、EV充電器からケーブルを差し込むだけです。あと、「セルフのガソリンスタンドでガソリンを入れるのが苦手だったけど、EVは充電ポートにコネクターを差し込むだけでいいのが嬉しい」という女性の声も聞きます。


コンパクトな軽自動車でありながら、
数百kgのバッテリーを床下に搭載するので、乗り心地はより落ち着きます。

御堀さんEVでよく言われる懸念に、「充電時間が長い」「走行距離が短い」「充電場所が少ない」などがあります。これらの懸念点は、自宅マンション駐車場にEV充電器があることでほとんど解決できます。そもそも、運転が仕事の方以外は、一般家庭の自動車は、駐車場に置いている時間の方が長いのです。

「充電時間が長い」

普通充電10時間ほど、自宅に帰って夜充電すれば朝にはフル充電が完了

「走行距離が短い」

EVで400km前後、EVの軽自動車で200km程度の走行距離。なお自家用車の1日あたりの走行距離は一般的に20〜40kmと言われる

※定められた試験条件での値。使用環境や運転方法に応じて航続可能距離は異なる

「充電場所が少ない」

自宅駐車場でフル充電できれば、長距離走行しない限り、走行中に頻繁に充電する必要はない

御堀さん私は一戸建てですが、自宅の充電で150km/1日走れるとすれば、途中の充電はほとんど必要ありません。以前、都内の自宅と御殿場を日帰りで往復し、およそ180km走行しました。念のために御殿場近くで一度急速充電しましたが、あとで計算すると充電しなくても良い位でした。道路の勾配によっても消費電力は異なり、登りは消費電力が増えます。逆に下りは、電力消費が大幅に減ります。


「回生ブレーキ」の仕組み。エネルギーを捨てずに再利用できます。

御堀さんEVならではの面白い点は、「回生ブレーキ」。これは走行時の運転エネルギーを電気エネルギーに換えて回収・再利用するというもの。減速ではモーターが発電機になって電気を貯めるという効率的な仕組みです。運転に少しコツはいりますが、ポイント貯めるつもりで、運転中に回生を活用しながら電気エネルギーを貯めていくことができます。たとえば、回生を活かしたアクセル操作を上手に行うことで、残り100kmの予定走行距離を、110kmに伸ばすようなこともできる訳です。

●EV充電器の存在でマンションの未来が変わる!?


EVとEV充電器の存在により、マンションの未来はさまざまな可能性を秘めています。

御堀さんEVやEV充電があることで、利用価値が高まるのは災害時の電力調達ですね。日本のEV充電の素晴らしい点は、蓄電した電気を家庭に戻せる設計であること。災害などによる停電時に、EVから、家庭の電気を調達したり、共用部の非常用電源として用いたりするなども考えられます。
すでに日産自動車と日立ビルシステムは、EV軽1台からの給電でエレベーターを継続運転させる実証実験を行っています。実験では、エレベーターの連続昇降回数は263回(往復)、「日産サクラ」のバッテリー残量(100%⇒46%)で、10時間連続してエレベーターを稼働できることが実証されました。これは一例に過ぎません。将来的にはEVやEV充電器を、災害時にマンションのために役立てる仕組みが、開発されていくと期待しています。


御堀さんが、EVの動向や歴史、普及に向けたポイントについて語っている
川崎市「EVマンション充電のススメ@かわさき」の動画インタビュー。

川崎市が、マンションにおける充電インフラの普及促進を目的に発行した
冊子「EVマンション充電のススメ@かわさき」。
御堀さんの巻頭対談が掲載されています。

→川崎市 EV充電インフラ普及のためのデジタル資料室

御堀さんEVの普及に関しては、各自治体も独自の取り組みを行って普及に努めています。ご紹介したように、神奈川県川崎市では、地球温暖化対策及び地域環境を改善するため、環境に優しい電気自動車(EV)及び、EV充電インフラの普及に取り組んでいます。自治体によっては、EV購入の補助金もあり、購入しやすくなっているのもポイントです。今後、マンションにEV充電付駐車場が増えていけば、EV普及は一気に加速化すると思われます。その点に期待しています。


EV充電付き駐車場は、オートロックや宅配ボックスのように、これからの人気マンション設備になっていきそうです。将来性を見越した、マンション選びのポイントとしてご検討ください。MAJOR7でもEV充電付き駐車場マンションを、キーワード検索していただけます。ぜひご活用ください。

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モータージャーナリスト 御堀直嗣さん

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。一般社団法人日本EVクラブ副代表として、EVや環境・エネルギー分野に精通。著書に、『スバルデザイン SUBARUデザイナーが貫く哲学(フィロソフィ)—継承とさらなる進化』(三樹書房)など。

記事監修:御堀直嗣

取材内容は2023年8月15日現在のもので変更になる可能性があります

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