一般社団法人減災ラボの代表理事、減災アトリエの主宰である減災ファシリテーターの鈴木 光(ひかり)さん。災害を「自分ごと」にするための防災・減災活動を行っている鈴木さんに、職住一体スタイルのマンションライフのお話を伺いました。防災の専門家がふだん実践している、減災知識や備蓄システムについても教えていただきましたよ!
高台のヴィンテージマンションで実現した、毎日森を眺める環境
テラスでお手製のレモンジンジャーを飲みながら、森を眺める贅沢!
食事もテラスでいただくそうです。
鈴木さんは、横浜市港北区の最寄り駅から徒歩15分ほどの高台にある、築30数年のヴィンテージマンションにお住まいです。管理の行き届いたマンションは、緑豊かな森の広がる丘陵に面して建っており、テラスの窓を開けると、一面森の景色が楽しめるという贅沢な環境です。
お部屋に入ると、誰もが窓からの景色に見とれてしまいます。
鈴木さんこの部屋を内覧したとき、玄関を開けた瞬間に一面緑の森が見えて、「うわっ、ここにする!」と即座に決めました。ここに住んでからは、家から出たくなくなりましたね。もう、お家大好き(笑)。春は山桜、秋は紅葉、四季折々の自然が楽しめますし、野鳥の声も聞こえてくる。テラスで双眼鏡でバードウォッチングをしたり、本当に飽きないですね。
鈴木さんが、一戸建てではなくマンションを選んだのは、構造的にも耐震性に優れている点でした。またこちらのマンションは、管理組合がしっかりと活動していて、大規模修繕工事をはじめとしたメンテナンス面でもよく手入れされていること、そして管理人さんが駐在されていることも、マンション選びのポイントになったそうです。
大学と大学院では、植物学・環境学を学んでいた鈴木さん。
ここに暮らしてから、昔使っていた双眼鏡や野鳥の本を再び取り出して活用し始めました。
そんな「お家大好き!」な鈴木さんは、マンションを仕事場としても使っています。テラスに面した洋室は仕事場、和室は寛ぐためのプライベートタイム用というように、意識的にオンとオフを空間で切り分けています。
森の景色が楽しめるテラスに面した和室と洋室。
インテリアも、少しテイストが変えてあります。
鈴木さん自然って、人の心を癒やす側面と、自然災害というかたちで襲ってくる恐ろしい側面の両方を備えています。日々災害の怖さに対峙している仕事のせいか、プライベートでは自然の癒しを欲しているのかもしれません。
一番眺めのいい場所を選んだ仕事部屋
仕事スペースはこれだけ!
手を伸ばせばすぐ必要なものにアクセスできるように、
プリンタやファイルボックスを格納したラックをサイドに置いています。
鈴木さん長い時間過ごすワークスペースは、一番景色のいい洋室のテラス側に設けました。以前はPCディスプレイも使っていたのですが撤去して、いまはノートパソコンだけ。なければなんとかなるものですね。
ワークデスクの上には、日常のデスクワークで使う必要最低限のものだけを置くようにしています。大好きな文房具は気を付けないとすぐに増えてきますので、「ここに入るだけしか持たない」というルールを決めて定期的に見直すようにしています。
コンパクトにまとまったコックピットのようなL字型ワークスペース。
ワークデスクとして使っているオールドIKEAのテーブルは、
子どもの頃は家族の食卓として、その後は写真家のお父様のアトリエ机として、
代々家族で受け継いできた大切な家具です。
鈴木さん書類や資料は右側のラックのボックスファイルに。オレンジは論文、赤は仕事関係、緑は事務資料と、用途毎に色分けしたファイルボックスでまとめています。「一目でわかること」って重要ですね。
オールドIKEAのテーブルは、ふだんはワークデスクですが、大人数を招いてのホームパーティのときには足を組み替えてローテーブルとして使えます。
防災の観点からも、家具は多く持たない、兼用できるものを使う、地震で倒れても被害が少ないように低い家具を選ぶようにしています。
以前は、家で仕事に集中できなくて、カフェやシェアスペースのドロップイン(時間単位貸し)を活用していたという鈴木さん。オンとオフを空間で区切ったことで、ぐんと集中しやすくなったそうです。
和室はオフタイムの寛ぎスペース
プライベート空間の和室には、レコードプレーヤーや文机。
鈴木さん和室だから、ここに一歩入ったらプライベートタイムという切り替えが自然とできるようになって良かったです。和室では、仕事のメールすら見ません。ソファでくつろぎながらレコードを聴いたり、テラスでおやつタイムをしたり。逆に、和室だから良かったのかもしれません。
写真家だった亡きお父様の文机。
思い出のあるものはなるべく引き継いで使っていきたい、と鈴木さん。
鈴木さんのお宅には、テレビがありません。それが、すっきりと凜とした部屋の雰囲気を醸し出しているのかもしれません。
鈴木さん意識的にテレビのない生活をしてみたくて、ちょうど機会があったのでテレビを手放しました、どうしても困ったら買えばいいやという軽い気持ちでしたが、意外になくても平気だとわかりました。災害情報もネットで速報が出るし、DVDもPCで視聴できる。テレビがなくなったことで、ゆっくり過ごす時間が増えました。
使いながら備蓄、挨拶をきっかけにしたご近所さんとの交流
冷蔵庫も食器棚も、転倒の危険を考えて低いものを。
食器、ふだん使う乾物や缶詰などの食材は、冷蔵庫の隣の白い棚に収められています。
鈴木さんは、減災ファシリテーターとして、講演やワークショップなどで全国を飛び回っている防災の専門家です。ご自宅のマンションでは、どんな防災対策や備蓄をされているのでしょうか?
鈴木さん部屋の防災対策としては、家具の数を減らして、背の低い家具を選ぶようにしています。備蓄は、長期保存できる防災用食品ではなくて、乾物や缶詰、レトルト食品などを少し多めにストックして、使ったら買い足すというローリングストック方式を習慣にしています。毎週頼んでいる生協も、ローリングストックに役立ってくれています。
食器棚に収められている、ふだん使う食材の一部。
カセットコンロで、水を多く使うことなく、すぐにできるレシピが災害時にも役立ちます。
写真手前は、一般社団法人減災ラボとしても協力した「おいしいミニ炊き出しレシピブック」。
鈴木さんマンションは頑丈な構造なので、もし災害があってもマンションで被災生活を送ることになる可能性が高いです。ライフラインがストップしても、水や火を節約して作れる保存袋調理や簡単なレシピを知っていれば、被災生活を乗り越えられます。熊本地震で被災した体験者の炊き出しアイデアをまとめた「おいしいミニ炊き出しレシピブック」もそのひとつ。これはふだんでも美味しく食べられるので、ぜひレシピを試していただきたいですね。
いざというとき、湯沸かしや火おこしなどの生活に必要なライフラインが確保できる
「ライフライン・サポートパック」は、ウォークインクローゼットに準備してあります。
鈴木さんは、その他、携帯トイレ、水、「ライフライン・サポートパック」などをウォークインクローゼットにまとめて備蓄しています。
→UPI OUTDOOR PRODUCTS「ライフライン・サポートパック」
最後に、マンションの防災・減災で重要なことは何か、鈴木さんに伺いました。
鈴木さん備蓄も大切ですが、やはり重要なのはご近所同士のお付き合いだと思います。私が引っ越してまもなく、お湯が出なくなってしまった時があったのですが、最初に引っ越しのご挨拶をしたご近所の方が「お湯が必要ならいつでも家に来ていいよ」と声をかけてくださいました。また、お隣に住む小さいお子さんのいる女性とは、廊下で挨拶をしたのがきっかけで、いまではお互い家に招くお付き合いとなりました。
災害だけでなく、何かトラブルがあったときに頼れる人間関係は、安心につながります。だから、挨拶ってとっても大切だと思います。
集住のマンションだからこそできる住民同士の助け合いは、日頃の挨拶やコミュニケーションの上に成り立っているのですね。鈴木さんのように、挨拶をきっかけにして、ご近所さんとの自然な交流ができれば、マンションはもっと素敵な故郷になっていくのではないでしょうか。
空間の違いでオンとオフをうまく切り分けた、鈴木さんの職住一体型のマンションライフには、見習いたいアイデアがいっぱい! また、ハード面で災害に強いマンションは、頼りあえる人間関係を構築すればさらに安全なものになるに違いありませんね。
【MAJOR7で大規模物件特集を見てみよう!】
一般社団法人減災ラボ代表理事、減災アトリエ主宰、防災図上訓練指導員、工学院大学客員研究員。
建設コンサルタントで9年間、環境と防災分野に従事。退職後、2015年5月に減災アトリエを、2017年2月に一般社団法人減災ラボを設立。全国各地の自治体職員、地域住民、学校、企業等に、地図を使った防災ワークショップや防災講座、講演会、訓練企画、コンサルティング等を実施。クリアファイルを使い地域の災害リスクの理解を深める減災教育プログラム「my減災マップ®」を考案し、各地の学校教育現場、自主防災活動等で評価され取り入れられている。趣味が高じて、現存する日本最古のジャズ喫茶「ジャズ喫茶ちぐさ」(横浜市野毛)で月2回ほど店頭に立っている。自身もアルトサックスを演奏する。
記事監修:鈴木 光
取材内容は2019年7月31日現在のもので変更になる可能性があります