子育て世代のマンション選びには、間取り、共用施設、設備、どんなポイントを抑えておけばいいのでしょう? 「子育てにやさしいマンション選び」のポイントを一級建築士の井上恵子さんに伺いました。
子育て世代の間取り選びは、部屋数ではなく広さで考えるのが正解!
これから子どもと住むマンション、どんな部屋を選べば良いのでしょうか?
——早速ですが、これから子どもが産まれる、またはすでに小さいお子さんがいるご家族がマンションを選ぶ場合、どんな点をポイントにすれば良いでしょうか? 将来の子ども部屋を確保するなら3〜4LDKは欲しいという方もいらっしゃいますが、子育て家族に最適な間取りはありますか?
井上さんよくそういう質問をいただきますが、マンション選びは部屋数で考えるのではなく、まずは住戸の広さ=平米数で検討することをお勧めします。十分な広さがない住戸で部屋数が多い間取りだと、ひとつひとつの部屋が小さくて使いにくかったり、将来起こるであろう家族構成やライフスタイルの変化に対応しにくいかもしれません。
国土交通省が公表している、健康で文化的な生活を送るための広さの基準「都市居住型誘導居住面積水準」では、3人家族で約75㎡、4人家族で約95㎡としています。これはあくまで理想の広さであり、都市部でこの広さの住戸を購入するのはなかなか難しいでしょう。ファミリータイプの分譲マンションの平均的な広さである70㎡程度であれば、3LDKもしくは2LDKくらいがよいかもしれません。2LDKでも4人家族で住むことができますよ。
——具体的にどのような間取りがお薦めでしょうか?
井上さんマンションではリビングに隣り合って引き戸などで仕切られた居室がある間取りをよく見かけますが、この位置にある居室はとても便利です。子どもが小さい頃は、夜は布団を敷いて家族の寝室として使ってもいいですし、日中は布団を畳んで子どもが遊ぶスペースにしたり、子どもが大きくなったら子ども部屋として与えてもいいですね。
キッチンで作業をしていても、リビングとの間にある引き戸を開放しておけば、目が行き届くので安心です。引き戸やふすまを多用した間取りはフレキシブルに使いやすく、子どもとコミュニケーションが取りやすいかもしれません。
「頭のよい子はリビングで勉強している」って本当?
家族が集まるリビングが、実は子どもの勉強が捗る!?
——子ども部屋問題はいかがでしょうか? 最初夫婦二人で1〜2LDKを購入して、子ども部屋を確保するために住み替えを検討される方も多いようですが。
井上さん先に申し上げたように1~2LDKでもひとつひとつの部屋がゆったり広めな間取りであれば、部屋をカーテンや家具などで間仕切って“子どもスペース”として使うことができると思います。カーテンや家具の間仕切りなら、子どもが巣立った後でも簡単に元に戻せます。
「一人に一部屋子ども部屋を与えなければ」と思い込む必要はなくて、成長に合わせてフレキシブルに、部屋のレイアウトを変えるなど住まい方を工夫してみてはいかがでしょうか?
個室を与えられなくても、兄弟・姉妹が一緒の部屋で、楽しく過ごすケースもあるようです。3人兄弟で1部屋をシェアしていたご家庭で、一番上のお兄ちゃんが「個室が欲しい」と言い出した時には、窓際のエリアを家具とカーテンで囲ってプライベートスペースを設けたことがあります。ほんのちょっとの工夫で、お子さんが満足できるレイアウト変更はできます。
——頭の良い子はリビングで勉強しているという書籍がブームになったことがあります。リビングでの学習効果はあると思われますか?
井上さん我が家では、子どもが小さい頃から個室を用意しましたが、そこではほとんど勉強せず、主にダイニングテーブルでやっていたと思います。中学受験をしたお子さんの話を聞いても、中学受験はまだ親がかりなところがありますから、リビングやダイニングなど親の目の届くところで勉強しているお子さんが多かったと思います。今、下の息子は高校生になりましたが、まだたまにリビングのコタツで勉強したりしますよ。私も近くのテーブルで家事や仕事をしながら、なんとなくお互いの存在を感じながら、干渉しすぎない距離感を保ちつつ、という感じで。怠けていたらすぐわかりますしね(笑)。リビングでの勉強は、適度な緊張感と距離感があって効果的な気がします。
——すでに実践されていたのですね。子どもが勉強することを考えると、テーブルはどの位のサイズが最適でしょう?
井上さん70㎡前後の3LDKだと、リビング・ダイニングの広さは10〜12畳位が一般的でしょうか。お子さんがダイニングテーブルで勉強することを考えれば、テーブルは1700mm×900mm程度の広めの方が良いですね。それを置くとソファセットは入りませんが、何をリビングの中心にしたいかという視点で取捨選択すると良いと思います。最近ではダイニングセットの椅子がソファを兼ねた家具、必要な時に延ばすことができるエクステンションテーブルなど、さまざまな家具が出ています。
リビングも子ども部屋も、「こうあるべき」という思い込みを一度取り払ってみる
いつも家族の笑顔で溢れている住まいが理想的。
井上さんは、リビング・ダイニングに家族が集ってコミュニケーションの場になることが大切だと言います。リビングで勉強していても、子ども部屋が全くなくてもいいという訳ではありません。
井上さんもし子どもがリビングで勉強するなら、よくある子ども用学習机などは、本当に必要なのかどうか、早い時期から考え直してみてもいいのではないのでしょうか? 小学一年生になると「学習机を買わなければ」「個室を与えなければ」と思う親御さんも多いようですが、お子さんが欲しいと言い出してからでも、よいのかもしれません。リビング・ダイニングの片隅にカウンターを設けて学習机の代用としてもいいでしょう。但し、ランドセル置場や教科書をしまうスペースは確保してあげてくださいね。ある年齢になったら一人になれるスペースは必要かもしれませんが、なるべくリビングに出てきて家族一緒に過ごせるよう、子ども部屋には必要最低限のものだけを置くようにしてもいいかもしれません。
——なんとなく子ども部屋には学習机が必要だと思いがちでしたが、すべての面で必要か不要かを根本からきちんと見直してみることが大切なのですね。
井上さんもし子ども部屋を設けるなら、リビングに隣接した部屋にすると良いですね。家族が集まるリビングを通って部屋を行き来することになるので、自然と家族間の会話が生まれやすく、子どもが部屋にいても声をかけやすいです。
——子育て世代のマンション選びに大切なポイントは何だとお考えになりますか?
井上さん「リビングにはダイニングセットとソファセットがあるべき」、「子どもにはそれぞれ個室を与えてあげるべき」というように、皆さんがこうあるべきだと思い込み過ぎている気がします。マンションはどうしても住戸面積に制約があり、思いをかなえるのが難しいこともあるでしょうが、そこは「こうあるべき」からいったん放たれて、柔軟な発想をもって選んでいただきたいと思います。
子育てにやさしい共用施設—キッズルームや体育館
雨の日も思い切り遊べるマンションの共用施設は魅力的。
——子育てにやさしいマンションにはどんな共用施設があればいいと思われますか?
井上さん子育て中は、子どもの声や走り回る音がご近所迷惑になるのではと心配するお母さんが多いと思います。マンション内に子どもが自由に遊べるキッズルームや敷地内に専用の公園などがあるといいですね。大規模マンションになると共用施設が充実して、中には体育館やプールがあるところも。親御さんにとっても、そのような場があれば子どもを持つ同世代の知り合いを増やす機会も増えますね。
MAJOR’S BLOGの以前の記事で、体育館や自習室があるタワーマンションでの子育てをご紹介しました。こんな風に子育てにやさしい共用施設があるといいですね。
⇒メッセージや“子ども便”が行き交う、タワーマンションの長屋的お付き合い
私が「マンションは子育てにやさしい」と思う3つの理由
子どもには伸び伸びと育って欲しい。我が家はそのための安心な住まいでありたいです。
——子育て世代にとってマンションの魅力はどこにあると思われますか?
井上さん私は、3つの点でマンションは子育てにやさしいと思っています。
1つには、家族の距離が近いこと。一戸建てだと一階と二階で分断されますが、マンションはフラットな間取りで、どこかで音が聞こえて家族の気配を感じられるのがいいなと思います。
2つめは、ご近所さんと子育ての悩みが共有できること。以前転勤で住んでいたマンションは、たまたま同世代の子どもを持つご家族が多くて、ママ友から病院や学習塾などの情報をもらったり、子育ての悩みをお喋りしたりするだけでも精神的に楽になりました。同い年の子どもがいれば、それだけで会話も弾みますしね。
3つめは、セキュリティ。夫婦共働きで子どもが留守番する機会が多いと、セキュリティがしっかりしていて、窓と玄関さえしっかり戸締りしておけばよいマンションは助かります。MAJOR7の「新築分譲マンションに際しての意識調査」で拝見したのですが、お金をかけてもこだわりたいポイントTOP10の7位は「セキュリティが充実していること」でした。マンションの価値にセキュリティを求める人は多いですね。
そういえばMAJOR’S BLOGの以前の記事で、子ども達でエントランスに集まって小学校へ集団登校しているというマンションの事例もありました。マンションの集住メリットは、子育てにもやさしいのだと改めて思いました。
⇒同じマンションの子ども同士で自発的に集団登校!安心して子育てできるマンションの魅力
井上さんのお話を伺って、私達が間取りで部屋選びを考えることもまた「こうあるべき」という思い込みだったことに気付かされました。一度いろいろな「こうあるべき」という考えを取り去って、もっと柔軟な頭でマンション選びをしていきたいですね。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰。一級建築士/インテリアプランナー/住宅性能評価員講習修了。日本女子大学通信教育課程「住宅リフォーム計画」講座担当。非常勤講師。マンションの性能評価、保育園の設計・工事監理、「All about」や「HOME’S」など生活・住宅情報サイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナー講師などを務める。総合生活情報サイト「All about」の住まいの性能・安全公式ガイド。著書に『大震災・大災害に強い家づくり、家選び』(朝日新聞出版)がある。
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記事監修:井上恵子
取材内容は2017年3月29日現在のもので変更になる可能性があります