マンション購入を考える上で、新築と中古マンションのどちらが良いのでしょうか? それぞれにメリット・デメリットがあり、その点をよく整理した上で納得いくかたちで検討したいものです。今回は不動産コンサルタントの長嶋 修さんに、新築と中古マンションを購入比較する上で知っておきたいことについてアドバイスいただきました。
新築マンションと中古マンション、購入するならどちらがいい?
新築と中古マンションの比較検討というテーマは、「絶対新築派!」「中古を自分好みにカスタマイズしたい」など、個人の嗜好や満足度が大きな影響を及ぼす問題でもあります。この機会に、感情的な問題だけで考えるのではなく、客観的に事実を並べて比較してみると、単なる思い込みや狭い視野にとらわれていたことに気付いて、冷静な判断ができるかもしれません。
今回お話を伺った不動産コンサルタントの長嶋修さんは、国内で初めて中立・公正な「個人向け不動産コンサルティングサービス」と「ホームインスペクションサービス(住宅診断)」の提供を開始した「さくら事務所」の創業者・現会長です。「さくら事務所」では、利害関係のない中立の第三者として、年間2,000件・実績37,000件を超える実績とノウハウで、一戸建てや新築・中古マンションの住宅診断や相談に答えています。
経済産業省・国土交通省等公的部門の委員等を歴任している長嶋さんには、日本のマンション市場が将来的にどのように変わっていくのか、長期展望に基づいたお話もお伺いしました。
新築マンションのメリットとデメリットを整理しよう
新築マンション
- 価格
- メリット :購入に関する諸費用は物件価格の5%以内で収まる。
- デメリット:価格が高い。購入後の価格下落幅が大きい。
- 税金
- メリット :住宅ローン控除、不動産取得税、固定資産税の軽減措置(適用要件あり)がある。
⇒一挙解説!マンションの購入・保有・売却・賃貸に関連する税金・控除について - デメリット:消費税がかかる。
- 検討時
- メリット :階数や間取りのバリエーションが豊富。室内設備のオプション選択肢もある。
- デメリット:購入前に実際の建物や部屋、眺望や日当たりなどが確認できないことが多い。
- 構造・設備・仕様
- メリット :最新の躯体構造や設備が導入される傾向にある。完成引き渡しから10年間の瑕疵保証制度がある。
- セキュリティ
- メリット :オートロックや24時間セキュリティが導入されている物件が多い。最新の監視カメラ機器が導入されている。
- 立地・エリア
- メリット :比較的駅近の立地条件の物件が多い。
- デメリット:望み通りの立地条件・エリアにあるとは限らない。
- コミュニティ
- メリット :ゼロからスタートするのでなじみやすい。
- デメリット:コミュニティがまだ出来上がっていない。
- 管理
- メリット :管理費や(入居当初の)修繕積立金が低く設定されている。24時間ゴミ出し可能、コンシェルジュなどの最新サービスが導入されている物件が多い。
- デメリット:管理状態が未知数。
- その他
- メリット :新築へ入居する気持ち良さがある。駐輪場・駐車場を確保しやすい。
——新築マンションのメリットとデメリットを上記表のように分類してみました。新築マンションの特徴としては、どういうことが言えますか?
長嶋さん「マンションの資産価値は、立地と建物の構造の2点に大きく左右されます。
最近計画されている新築マンションは駅から徒歩7分以内の物件が多数を占めており、新築マンションの立地条件は良いと考えられます。
マンション(RC/鉄筋コンクリート造)の寿命には諸説ありますが、早稲田大学理工学術院の小松幸夫教授によると68年(※1)、大蔵省主税局の「固定資産の耐用年数の算定方式」によると120〜150年(※2)。その後のメンテナンスや構造種類によって大きく異なってきますが、建築技術やメンテナンス技術の向上により、マンションの建物の寿命は年々伸びる傾向にあります。日本ではいままで、建物の価値はいずれなくなるものだと考えられ経年と共に価値が減っていくものが当然とされてきましたが、欧米ではメンテナンスを施して建物の資産価値を維持するのが当たり前です。日本でもこれからは、新築であっても中古であっても、いかに立地と建物構造の良いマンションを選ぶかという点が非常に大切になってくるでしょう。いま新築マンションの販売価格が高いと言われていますが、リーマンショックの時とは違って金利は低い。立地が良く、構造がしっかりしたマンションを選ぶことで、資産としての価値は充分あるでしょう」
※1 早稲田大学小松幸夫教授「建築寿命の推定」(2013年)
※2 大蔵省主税局の「固定資産の耐用年数の算定方式」(1951年)
——人間の平均寿命と同様に建物自体が長寿化しているのですね。たとえば35年ローンで新築マンションを購入すると、自分が住んでいる限り建て替えの可能性はないということで、逆に注意すべき点は何でしょうか?
長嶋さん「実際、日本でのマンション建て替え事例は非常に少ないです。マンションを建て替えしないと考えると、新築マンションの入居時点から1〜2年の間に、マンションをいかに長持ちさせるかという視点に基づいて管理組合で管理や修繕計画を話し合っておくと、後々凄く楽になります。新築マンションだと特にメンテナンスに無関心な人が多いでしょうが、入居後からアフターサービスを活用しつつこまめなメンテナンスを計画的に行うことで、結局は建物の寿命を伸ばすことにつながります」
中古マンションのメリット・デメリットを整理しよう
中古マンション
- 価格
- メリット :新築に比べると価格が安い。購入後の価格下落幅が小さい。
- デメリット:仲介手数料などがあるため、購入に関する諸費用が物件価格の5〜8%かかる。
- 税金
- メリット :住宅ローン控除、不動産取得税の軽減措置(適用要件あり)がある。売主が個人の場合、消費税はかからない。
- デメリット:新築住宅に対する固定資産税の軽減措置が受けられない。
⇒一挙解説!マンションの購入・保有・売却・賃貸に関連する税金・控除について - 検討時
- メリット :購入前に実際の建物や部屋、眺望や日当たりなどが確認できる。入居後のイメージが湧きやすい。
- デメリット:希望通りの階数・間取りがあるとは限らない。
- 構造・設備・仕様
- メリット :相対的に購入価格が低い分、カスタマイズにお金をかけられる場合が多い。
- デメリット:築年数や管理状態によっては躯体構造が劣化している可能性がある。階高やスラブ厚さなどの基本構造部分の仕様が低い物件の場合は、リフォームやリノベーション上の制約がある。物件によっては、後付けすることができない設備もある。引き渡し後の瑕疵保証制度がない、または保証期間が短い場合がある。
- セキュリティ
- メリット :コミュニティが出来上がっていれば、住民同士の見守りが可能な場合もある。
- デメリット:オートロックなどがない場合もある。監視カメラが古い。
- 立地・エリア
- メリット :希望するエリアから選べるため、比較検討しやすい
- デメリット:望み通りの立地条件・エリアに、希望する中古マンションがあるとは限らない。
- コミュニティ
- メリット :すでにコミュニティが出来上がっているため、全体の雰囲気が掴みやすい。
- デメリット:既存のコミュニティに溶けこむまで時間がかかる場合もある。
- 管理
- メリット :購入前に管理状態がわかる。
- デメリット:築年数と共に修繕積立金が高くなる傾向にある。24時間ゴミ出し不可の場合もある。
- その他
- メリット :実際に部屋を見て検討できる。
- デメリット:築年数や管理状態によっては建物に劣化がある場合もある。
——中古マンションについてはいかがでしょうか?
長嶋さん「アメリカ・イギリス・フランスと比較すると、日本は新築着工戸数が多いのに、中古物件の住宅取引数は一番少ない状態です。一方中古物件の住宅取引数は、アメリカが圧倒的に多い。
日本の新築マンションは築年数と共に毎年価格が下落していき築20年を過ぎたあたりで下げ止まってさらに緩やかに減少していきます。アメリカではメンテナンスや管理状態を良くすることで中古の資産価値を上げ、価値を増していくという施策がとられています。
いま日本でも中古市場が活況をみせはじめており、今後はアメリカと同様に中古マンションの資産価値を正しく評価していこうという動きが始まっています」
——それはどのような動きなのでしょうか?
長嶋さん「国土交通省が推進している、不動産に関わる情報をストックしていくためのシステム『不動産総合データベース』がそうです。現在、横浜市・静岡市・大阪市・福岡市に所在する一戸建てやマンション、土地の売買物件の情報を以下の図の仕組みのように収集しています。将来的には、日本全国の不動産に関する情報を収集して、当初は業者間で共有、やがてはすべての人に開示していく展望が持たれています」
国土交通省「不動産総合データベースについて」を元に作成 ©長嶋修
——将来「不動産総合データベース」が整備されれば、中古マンションの購入検討者は物件の比較検討がしやすくなるのでしょうか?
長嶋さん「マンションについては、たとえばそのマンションの管理情報や取引履歴などの物件情報が参照できますので、適正な価格なのかどうかの判断材料に活用できます。また、いままでは築年数の経過によって一律に価格が下がる傾向も強かったマンションですが、建物の質や構造、劣化の度合いに応じて適切に価格が判断されるようになるでしょう。新築マンションが、いかに管理・点検・修繕されてきたか、その住宅履歴によって正しく価格が評価されます。またその土地の周辺環境に関する情報(ハザードマップなど)も組み込まれますので、エリアの安全性なども価格に反映されることになるでしょう」
「マンションは管理を買え!」というのは、「管理組合を買え!」が正しい
管理組合がしっかりしていれば建物のメンテナンスも万全!?
——新築も中古もそれぞれのメリット・デメリットがあり、一概にどんな人に向いているとは言えないものでしょうか?
長嶋さん「それぞれの良さがありますから、向き不向きのパターン化はできません。しいて言えば、中古は細かく情報を調べるのが好きな人に向いているかもしれません。そこまで面倒なことをしたくない人は、間取りや仕様が用意されていて“おまかせ”にできる新築が向いているでしょう」
——お話を伺っていると、新築でも中古でも立地と建物の2点が大切というのはよくわかりました。これは、購入後に自力で変更できるものではありませんから。それ以外に、マンション購入に役立つ情報はありますか?
長嶋さん「よく『マンションは管理を買え!』と言われていますが、実は『管理組合を買え!』だと思います。自分達のマンションの資産価値を高めよう、よりよいコミュニティを作ろうという熱心な管理組合がいま確実に増え始めています。さきほどの『不動産総合データベース』にも、データ項目としてマンションの管理情報が入るようになっています。管理組合がいかに積極的に管理に関わっているかどうかという点は、いままで中古マンションの価格に組み込まれていませんでした。
東京・渋谷区の某エリアには、同じ築年数の同規模のマンションが並んで建っているのですが、一方は半年前までは管理規約すらなかったというソフト面で立ち後れていたマンションなのに、中古マンションとしての販売価格は同じです。データベースの活用により、これまで評価されなかったマンションの管理組合の活動が価格に反映されてくるはずです。
これから新築マンションを買う人にとっても、コミュニティ作りというソフト面や修繕というハード面など、マンションを良くしていく活動のすべてが価格に反映されていくのだということがわかります。管理組合運営の考え方が変わるきっかけになるでしょうね」
コンパクトシティー構想や子育て支援、自治体の施策を見据えて購入を検討する
都市機能の近接化でコンパクトシティー化する未来。
——他にマンション購入で注意しておきたいポイントはありますか?
長嶋さん「国土交通省の試算(※3)によると2050年には日本の人口は約9,700万人に減少し、2010年時点の人口の半分以下になる地域が6割以上を占めるという、大幅な人口減少が予想されています。そのため中心市街区域に住宅・商業施設・公共施設などの生活に必要な諸都市機能を近接化したコンパクトシティー構想を打ち出している自治体も多くあります。
また、子育て支援などを手厚く行うことで住民流入を誘引して人口増加に成功している自治体もあります。マンション購入を検討する際には、こうした自治体の施策や計画にも目を向けておく必要があります」
自治体の施策や状況は、その後長く住む住環境に直結する大切な問題です。マンション購入時には、駅からの徒歩分数やマンションの間取り・デザインといった目先の情報に惑わされがちですが、長い目で見てそのエリアに将来性があるのかどうか、俯瞰した視点で考えることも必要なのですね。
※3 国土交通省 新たな「国土のグランドデザイン」骨子参考資料
新築でも中古でも、マンション選びに重要なのは、維持管理や管理組合の意識といった内面と、立地条件・建物の構造・メンテナンスといった外面の2つの点をしっかり把握することだといえるようです。さらに、将来性という意味で住環境を提供する自治体の状態や計画の確認を行えば万全。マンションはただの箱ではなく、中身のある生き物。そしてその中身を形作っていくのは、他ならぬ未来の住民である我々一人ひとりなのですね。
いままでと少し違った視点で、マンション選びを考えられそうです。
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不動産デベロッパーで支店長として幅広く不動産売買業務全般を経験後、1999年に業界初の個人向け不動産コンサルティング会社である、不動産の達人 株式会社さくら事務所を設立、現会長。以降、様々な活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。
2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度をめざし、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立、初代理事長に就任。また自身の個人事務所(長嶋修事務所)でTV等メディア出演、講演、出版・執筆活動等でも活躍中。現在、日経電子版「NIKKEI STYLE」、東洋経済オンライン、Forbes JAPAN WEB等で連載中。業界・政策提言や社会問題全般にも言及する。『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)他、著書多数。新著に『不動産投資 成功の実践法則50』(ソーテック社)
記事監修:長嶋 修
取材内容は2017年4月27日現在のもので変更になる可能性があります