生前整理という言葉をご存じですか? 第二の人生を心豊かに暮らすため、生前整理を行う方が増えているようです。
生前整理の考え方や進め方、得られるメリットなどについて、生前整理アドバイザーの香川康子さんにお話を伺いました。
生前整理は、これからの人生を心豊かに生きるためにある
親の家の物の多さが気になっているお子さんは多いはず。
——そもそも生前整理とは、どういうものでしょうか?
香川さんよく比較されるのは、遺品整理と生前整理です。生前整理は、ご本人が自分で判断して片付けます。遺品整理は、お亡くなりになった方のお子さんや親戚が、故人の残された物を片付けるものです。決定的な違いは、生前整理は親御さんがこれまでの人生を整理して今後を心豊かに生きるためのものという点です。
- 生前整理
- ・本人が自分で判断して片付ける
- ・大切な物を厳選すれば、ずっと手元に置いておける
- ・リサイクルに回せば、物を活かせる
- ・物と一緒に、記憶や想いも受け継がれる
- 遺品整理
- ・故人が残した物を片づける
- ・家族の労力、精神的・経済的負担が大きい
- ・辛くてなかなか片付けられない
- ・こじらせた末にすべて廃棄処分となるケースもある
——そういえば、実家に残された遺品整理に苦労されているお子さんの様子をテレビなどで見たことがあります。
香川さん私達も、親御さんがお亡くなりになって、残された実家の片付けに苦労されたお子さんからの遺品整理のご相談を数多くお手伝いしてまいりました。親世代の家は、物が溜まりがちな傾向にあります。賃貸であれば退去期限もあり、急いで片付けなければいけません。慌てて業者さんに依頼して思い出の品もすべて捨ててしまって、後から後悔されている方もいらっしゃいます。逆に持ち家であれば猶予がありすぎてなかなか片付けが進まず、すべて完了するまでに7〜8年かかってしまうというデータもあります。
——生前整理ができていないと、残されたお子さんも大変なことになるのですね。
香川さん親御さんも、子どもにそんな苦労をかけることは望んでいらっしゃいません。現在の親世代の方々は、ご自分の親の遺品整理で苦労された経験があるので、自分達は同じ苦労を子どもにかけたくないと、早めに生前整理を行う方々が増えてきています。生前整理で物を減らして、暮らしやすいマンションに住み替え、イキイキとした第二の人生を過ごすシニア世代の方も多いですよ。
物・心・情報の3つを整理すると生前整理はうまくいく
この3つを整理するのが生前整理を成功させるコツ。
——親世代の家は物が多く、いつか一緒に片付けなければと思ってもなかなかできません。
香川さんいつかそのうちと思っていても着手できないものです。一般社団法人生前整理普及協会では、物・心・情報の3つを整理する生前整理をアドバイスしています。
「物」を片付けると身の回りがスッキリし、老後の安心・安全にもつながります。実際、高齢者の転倒事故は家庭内で起こっていることがほとんどです。ただ、中には思い出が詰まっている、どうしても捨てられない「物」もあります。数々の生前整理を行ってきた経験を踏まえて、生前整理普及協会では、『ずっと持っていたい思い出の「物」は最終的にはみかん箱1個サイズ位が適量です』とお話しています。サイズだけにとらわれる必要はありませんが、一定の基準を設けると、残したい思い出の「物」が決めやすくなるからです。もし処分するかどうか迷ったら、ひとまず箱や袋に入れ、保管してみてください。その際は再度チェックする期日を明記し、中身をわかるようにするのがポイントです。
「心」の整理では、自分にとって本当に大切なものは何かについて考えて整理します。
私どもの認定講座では実際に「生前整理実践帳」を記入していただいています。内容は、いままでの人生の振り返り/自分の葬儀のプロデュース/やり残しリスト作成/大切な人へのメッセージ/自分の未来のプランニングなどです。これらを書き出すことは、「心」の棚卸しにつながります。自分の死に備えて用意する「エンディングノート」というのもありますが、これは「死」を前提として書くもの。「生前整理帳」は、これからの「生」を前提として、新しい生き方を見つめ直すものです。今後どう生きていきたいかについて考えるのに役立ちます。
「情報」の整理は、資産、人間関係、介護やターミナルケア(終末期医療)の方法、葬儀の希望を整理して、将来の意思を子ども達に伝えます。これら3つの作業を行うことで、自分の人生の棚卸しが出来、新たな人生の計画や希望が湧いてきます。
——とはいえ、大量にある「物」の整理でつまずいてしまいそうです。
香川さんすべて「いる/いらない」で片付けてしまおうとすると、悩んだり混乱したりします。写真のような「いる/いらない/移動/迷い」の4分類シートで物を分類していくと、うまく仕分けできます。「迷い」は、思い出として残すか手放すか迷ってしまう物。判断の基準は8秒間がベストです。「迷い」に分類した物は、空き箱や袋に入れておき、半年後にまた開けて仕分けします。「移動」は、確実に思い出として残したい物または他の部屋に移動したい物を分類します。4分類シートは、写真のように大きなブルーシートにガムテープで4分類して自作できます。まずはこういう片付けの手法を学ぶことから始めてはいかがでしょうか?
物を片付けるときに用いる4分類シート。
——親の生前整理を手伝うときに、子どもとして注意する点はありますか?
香川さんお子さんが親の家の片付けを手伝うと、必ず親子喧嘩に陥りがちです。「片づけて!」「捨てなきゃ」「こんな物いるの?」などは、NGワード。大切なのは、親の暮らしを否定しないことです。親の話をじっくり聞く(傾聴)、片付けが少しでも進めば成果を認める(承認)、問いかけて(質問)親の気持ちを整理してあげるという、傾聴・承認・質問が生前整理のキーワードです。その作業の中で特にお勧めなのが、「特選アルバム」作りです。
生前整理のひとつ「特選アルバム」作り。
香川さん「特選アルバム」は、大量にあるアルバムから厳選した30枚だけを選んで1冊にまとめます。思い出を書き添えてアルバムを作っていると、これまでの人生を総括して、これからの新しい人生に目を向けることが出来ます。実際このアルバム作りで、生前整理の目的を再確認し、完成のかたちが見えてきたという声を多くいただいています。
また、生前整理で物や心が片付いていくと、親から子へ引き継ぎたいものが明確になります。私は、祖母が嫁入りのときに持たされたという懐剣(短刀)を父から渡されました。もし懐剣の由来を聞いていなかったら、大切に受け継いでいくことは出来なかったかもしれません。親から引き継ぎたいのは、物だけではありません。母の味や思い出といった無形のものを引き継ぐ、“心の相続”も生前整理によって得られるのです。
早いタイミングで生前整理をすることで、住み替えや豊かな人生がスタートできる
94歳のお母様を見送った娘さんの実家の片付け事例
Before & After。
——生前整理をして住み替えに成功された方はどんな暮らしを実現されていますか?
香川さん実は私の叔母夫婦(74歳)が、老後の暮らしを考えて生前整理をして、一戸建てから駅直結の新築マンションに住み替えました。足腰も弱ってきて、体力や筋力の低下を感じたことがきっかけでした。マンションだと、管理員さんが常駐していて緊急時に連絡でき、高所の電球交換などの日常の困りごとにも管理会社が迅速に対応してくれるので安心できると言っています。
他にも、2年前に78㎡から68㎡のマンションに住み替え、将来は安心なケア付きマンション(30㎡台)に住み替える予定で物件を見て回っているという受講者の方もいらっしゃいました。また、親世帯が便利な駅前のマンションへ移り、お子さん世帯が郊外にある親御さんの一戸建てをリフォームして住むという、エクスチェンジケースというのもあります。生前整理に成功して住み替えた方々は、皆さんイキイキとしたシニアライフを楽しんでいらっしゃいます。
——古い暮らしをリセットして、住み替えにより新しい暮らしを手に入れていらっしゃるのですね。
香川さん住み替えもよく計画する必要があります。私の両親は、60代の頃に終の棲家として郊外の広い一戸建てを購入しました。当初はガーデニングにも勤しんでいたのですが、まだ仕事を続けたかった母の通勤が不便だったので、3年程で駅前の便利な立地のマンションに住み替えたことがあります。以下の表は、内閣府の資料などを元に、高齢者の住みやすさの傾向を比較したものです。
高齢者の住みやすさの比較
- 移動の困難さ
- 一戸建ての傾向
- ・住居内に階段がある(2階、3階建て)
- ・段差がある場合も
- ・移動距離が長くなりがち
- マンションの傾向
- ・住居内に階段なし(メゾネットタイプを除く)
- ・全般的にバリアフリー
- ・動線がコンパクト
- 室内環境
- 一戸建ての傾向
- ・部屋別の温度差が大きめ(ヒートショックの原因にも)
- マンションの傾向
- ・部屋別の温度差が小さめ
- メンテナンス
- 一戸建ての傾向
- ・庭の手入れ(植栽の剪定・水やり)、掃除が大変
- ・町内の当番制の掃除がある
- ・自費(一度に大きな出費となることも)
- マンションの傾向
- ・住居外は管理会社が実施
- ・定期的な点検サービス
- ・管理事務所があり、対応が早め
- ・管理費、積立金などが必要
- 光熱費
- 一戸建ての傾向
- ・全体的に高めの傾向
- マンションの傾向
- ・一戸建てに比べて低め
※内閣府「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果(住宅の項目)」、および実際の事例を参考に、独自に表組を作成(©香川康子)
香川さんやはりシニアには、立地や快適性の面でマンションに住み替えるメリットがあります。将来介護の必要ができた場合、一戸建ての一人暮らしや老夫婦の二人暮らしには生活面で困難なことが多いものです。マンションへの住み替えを早めに決断することは、ご自分達の要望に合った物件をじっくり選べますし、生前整理をしていれば引っ越し時の荷物の整理の負担も少なくなります。早い時期にマンションに住み替えをしていると、地域のコミュニティにも溶け込みやすいです。シニアのマンション暮らしは、自宅で自立して暮らせる限界を後伸ばしに出来る傾向にあります。
——生前整理は、安全・安心な暮らしへの住み替えも可能にしてくれるのですね。
香川さん一般社団法人生前整理普及協会では、生前整理のやり方を具体的に学べる講座を全国で実施しています。生前整理をしたいけれど、どこから手を付けていいかわからないという方は、まず講座で学んでみてはいかがでしょうか?
生前整理は、家族と話し合うことから始めましょう
お子さんにとって、親世帯の老後の暮らしは心配なものです。もし親御さんが老後の暮らしのために住み替えを検討されているようであれば、生前整理について一度家族で話し合ってみてはいかがでしょうか?
生前整理は、プレシニアの方にも役立ちそうです。「今後どんな風に暮らしたいのか?」についてご夫婦で話し合って、将来の計画を練ってみるのもいいかもしれません。生前整理で身の回りの物と心をスッキリさせて、幸せな第二の人生の準備をしたいものです。
MAJOR’S BLOGのシニアのためのマンションライフ記事もぜひ参考になさってください。
⇒5軸のペンタグラムで住み替えタイミングがわかる!?シニアライフを健やかに楽しく過ごすマンション選びとは
⇒80代のお母さまがワンちゃんと一緒に、息子夫婦が暮らす東京へ“肉じゃが”の冷めない距離に住む「マンション近居」の安心感とは
⇒住み替えで見えてきた、プレシニア世代夫婦の「ほんとうに大切なもの」とは?
【MAJOR7で駅近物件を見てみよう!】
(一社)生前整理普及協会認定 生前整理アドバイザー認定指導員・住空間収納プランナー・1級家事セラピスト。2005年、女性3名で起業し、片付け・収納・インテリアの仕事をスタート。 個人宅を中心に、整理収納アドバイス、作業、新築・リフォーム時の収納設計、家具設計等に携わる。その後、フリーとなり、自らの体験から生前整理の大切さに気付き生前整理を広める活動を始める。現在は神戸と大阪で定期的に講座を開催。
記事監修:香川康子
取材内容は2017年6月27日現在のもので変更になる可能性があります