『日々のごはんとはたらくキッチン』や『シンプル暮らしのお片づけ』など、暮らしに関する著書が人気のエッセイスト・整理収納アドバイザーの柳沢小実さんのお宅で、キッチンづくりについてのお話を伺いました。キッチンは、収納方法や動線をちょっと工夫するだけで、とたんに使いやすくなるそう。きっと参考になるはずですよ!
柳沢家は、動線に合わせたゾーニングが出来上がっている!
キッチンは、リビング・ダイニングとの仕切りがないオープンスタイル。バルコニーに面した明るく広い18畳のリビングとつながっていて、居心地のいい空間となっています。
柳沢さんは、食べること、料理することが大好き。だから、常に機能的なキッチンづくりを心がけているそうです。確かに見ただけで、「使いやすそう!」と感じる素敵なキッチンですね。柳沢さんは、いったいどんな風にキッチンづくりを行っているのでしょう?
柳沢さんいつも引っ越しをする前に、キッチンの見取り図をノートに書いて、持っているモノをどう置いて、どういう動線で動くかを、あらかじめプランニングしています。収納は、「なんとなくきれいに置いてみた」というフィーリングでは無理です。動線を考えずに、ふわっとしたイメージだけで、いきあたりばったりでモノを配置すると、結局うろうろする無駄な作業が増えて、キッチンに立つことさえイヤになってしまうこともあり得ます。
柳沢さんは、「使う場所の近くに必要なモノを置く」というルールですべての動線を考えているそうです。ダイニングテーブルの近くには、食器を入れたイギリスのアンティーク家具があり、ここからすぐに取り皿などがテーブルに出せます。
食器が大好きな柳沢さんですが、この棚に入るだけの食器数しか持たないというのが、マイルール。アンティークのブックシェルフなので、奥行きも浅めの30㎝程度。下段に重くて大きい器、中段には中サイズの器、上段には小ぶりな器をまとめています。
収まっている食器がすべて見渡せるというのも、管理する上ではとても大切なこと。すべての収納を「見える化」している柳沢さん。すべてのモノに置き場所が決まっているため、柳沢家ではめったに捜しものをすることがないそうです。
柳沢さんキッチンの近くに食器棚があると便利だと考える人もいると思います。使いやすく感じる動線は人それぞれに違います。私は器が大好きなので、いつも使ったり眺めたりしていたい。「見せる収納」にこだわった結果、キッチンとダイニングの間に食器棚があると動きやすいとわかりました。食器やグラスも、2つの棚に入るだけの数しか持たないと決めたので、使うのもしまうのも、すごくラクです。
調理するキッチン、取り皿類を入れている食器棚、グラス類を入れている食器棚から、ダイニングテーブルへアクセスしやすいようにゾーニングされています。
柳沢さん年代や家族構成、ライフスタイル、何が大切なのかによって、動線は変わってきます。だからまず、我が家は何が大事なのか、明確にするために書きだしてみるのがおすすめです。これからマンションを購入する方であれば、なおさらですね。
いま使っているキッチンで、何が便利で、何が不便かを、具体的にノートに書きだすだけでも、自分の求める理想のキッチン像が明確になっていくはずです。もしいま使っているキッチンの作業台が高すぎて作業しづらいようならば、自分にとって使いやすい高さも、併せてメモしておくといいですね。
自分にとっての便利さ・快適さをリストにして書きだしていくと、自分のニーズやウォンツの整理にもなります。柳沢さんは、いつでも場所の寸法を測れるようにメジャーを持ち歩いているそう。とはいえ、細かくラベリングしたり収納用具を揃えたりする収納フェチではなく、“ざっくり収納が基本”だと柳沢さんは言います。
柳沢さん私の場合、「ラクしたい」が出発点ですから(笑)。いかに面倒くさくなく、ざっくり収納していかに使いやすいか、いつも考えています。収納ってある種のゲームみたいなもの。失敗しても自分や家族に迷惑がかかるくらいですから(笑)、何でも試してみればいいのです。視点と発想を変えながら、どこまでそぎ落とせるか、どう改善していくかを考えるのが楽しい。職業病かもしれませんが、いつも楽しくてニヤニヤしながら考えています。
そう言われると、なんだか気がラクになってきました。では、実際に柳沢さんのキッチン収納を見せていただきましょう。
使う場所の近くに必要なモノを収納する!ルールを徹底したキッチン
ガス台、作業台、流し台の収納ルールを表すゾーニング図。
それぞれの場所で使うものを近くに配置し、使用頻度に分けて収納する。
※1軍:ほぼ毎日使うモノ、2軍:月に数回使うモノ、3軍:季節や機会がある度に使うモノ(詳細は後述)
柳沢さんのキッチンは、リビング・ダイニングに面したオープンスタイル。すっきりして生活感を感じさせないのは、よくある家電製品を意識的に目に入りやすい場所に置いていないから。とはいえ、使いやすさを最優先に考えたキッチン収納では、「使う場所の近くに必要なモノを置く」というルールが徹底されています。
柳沢さんガスコンロのある火まわりには、フライパンや鍋などの加熱調理に使う道具。作業台まわりには、ふだんよく使うボウルや保存容器。水まわりには、下ごしらえに使う包丁やタオルなどの道具。その場所でよく使うものを、一番取り出しやすい位置に収納しています。
すごくわかりやすくて論理的なゾーニングです。私たちはつい、大きさに合わせて収まりやすい場所にモノを収納しがちですが、キッチンでの作業別に道具をまとめて、家事の流れをつくるのが柳沢流。そして細かく見ていくと、柳沢さんならではの3つのポイントがありました。
柳沢流キッチン収納その1 “8割収納”で“スキマ恐怖症”を捨てる!
ガスコンロのすぐ下の引き出し。こんなに余裕があるってびっくりです。でも決して絵空事のスタイリングではなく、すぐお料理に取りかかれる実用的な収納。使いやすいキッチンってこういうことなのだと納得しました。
キッチンの吊り戸棚や引き出しを開けると驚くのが、収納スペースの余白の多さ! スペースに対して8割くらいしかモノが入っていません。しかし、鍋やフライパンも、二人暮らしのご夫婦ならばあたりまえの数。いえ、それよりも多いかもしれません。なのに、どうしてこんなに余裕があるのでしょう?
柳沢さん我が家は、決してモノが少ない方ではないと思います。ただ、必要最低限の道具だけに絞って、いつも厳しい目で間引きしています。キッチンツールは、便利だからと言って何かと種類や数が増えがちなもの。そこをあえて、扱いやすく使いやすい、質実剛健な道具だけを選ぶようにしています。
作業台の吊り戸棚には、ふだん活躍する保存容器が並んでいます。ここも8割収納。いえ、それ以下かも!?
柳沢さん日本人ってスキマ恐怖症のような気がします。シンクと冷蔵庫の間に20㎝のスキマがあれば、そこにスキマ家具を置きたくなる。何をそこに収納したいかではなくて、とにかく収納があればあるほどよくって、スキマを埋めていくという考え方ですね。その発想を一度転換する必要があるのではないでしょうか。
最近のマンションは、収納も使い勝手もよく考えて設計されています。「マンションに収納が少ない」とよく言われますが、実はそうではなくて、スペースに対して持っているモノが多すぎるだけなのです。最近は、そのことにそろそろ気付いてきた人も多くなりました。
スキマ恐怖症を捨てて、“余白ってラクだよ” “スペースが空いていると気持ちいいんだと”ということをもっともっと伝えていきたいですね。
確かに、スペースがあれば何かそこに詰めたくなるのが、私たちの常。でも全部埋まっていなくても、厳選した必要なモノが必要な場所に収まっていれば、格段に使いやすいキッチンになるんですね。
柳沢流キッチン収納その2 キッチンツールは1軍・2軍・3軍のチーム分け
柳沢さんキッチンツールは、使用頻度によってチーム分けができます。1軍はほぼ毎日使うモノ、2軍は月に数回使うモノ、3軍は季節や機会がある度に使うモノ。普通は種類別に収納しがちですが、使用頻度別に分けて収納することで、さらにキッチンが使いやすくなります。お客様用のペーパーナプキンやカトラリー類を別に分けて収納するだけでもずいぶんスッキリしますよ。
ふだんよく使う食器やカトラリーは1軍として、最上段に。製菓道具やペーパーナプキンなどの2〜3軍の道具は、最下段に。使う場所の近くにも、使用頻度別のチーム分けがなされています。
柳沢さんは、さきほどのゾーニング図のように、使用頻度別に1〜3軍に分けたキッチンツールをさらに使う場所に一番近いところに収納するようにしています。確かに毎日お菓子を作る訳ではないなら、腰をかがめないといけない最下段の引き出しに製菓道具を入れておけばいいですね。納得のゾーニングです。
柳沢流キッチン収納その3 ストック食品は“見える化”と“出しやすさ”を最優先
冷蔵庫の向かいにあるユニットシェルフには、調理時に使う調味料、毎日飲むお茶の道具、ストック食材、電子レンジオーブンがまとめられています。お料理好きのキッチンは、楽しげな雰囲気ですね。
柳沢さんここも、出しやすさ・使いやすさ優先で収納しています。電子レンジオーブンは、朝パンを焼くときにしか使わないので最下段に。その上にはパン皿として使う食器を収納しているので、パンを焼いたらお皿に載せてそのままダイニングテーブルへ直行できます。
食材も、ここに入る分だけをざっくりと賞味期限で分けるだけです。そしてすべてが見渡せることも大切です。種類別に細かく分けてしまうと、あちこちに分散してしまいます。一目で探している食材が見つかれば、食べ忘れや買い忘れが防げます。
冷蔵庫の向かいにあるユニットシェルフの最上段・中段・最下段に収納している食材。写真左から、手に取りやすい最上段には開封済みで早く食べなければいけない食材。開封済みの食材は中段のワイン箱。最下段のコンテナにはパスタや缶詰などの未開封ストック食材。ここにも優先順位のルールが活きています。
キッチンを制すれば、部屋を制する!
ここに入るだけしか持たないと決めている本棚には、ご自身の著作物やお気に入りのアイテムが飾られています。
余白を活かす収納はここにも!
柳沢さんのキッチンは、なぜここに収納されているのかがすべて説明できる、論理的な収納術でスッキリと出来上がっていました。ご家族はどんな反応でしょうか?
柳沢さん私が仕事で国内外を旅することも多いので、私がいない間にキッチンを使う夫にも、何がどこにあるのかを論理的に理解してもらえるようにしています。夫だけでなく、友達が来て誰が使ってもわかりやすい収納を心がければ、悩みも少なくなると思います。
それには、“ざっくり収納”と “必要な場所に必要なモノを置く”ことが一番。細かくきれいに収納するのもいいのですが、自分以外の家族が使いやすいことを基本に考えてみるとわかりやすいのでは? キッチンを制すれば、部屋全体を制することができますよ!
最後に、これからマンションを購入して理想のキッチンを作りたいと考えている人に向けてアドバイスをいただけますか?
柳沢さんこれからマンション購入したいと考えている方は、間取り図を見て、そこにいる自分を想像してみるクセをつければいいと思います。収納も、マンション選びも、想像力が大切です。生活者の視点で、吊り戸棚の高さ、コンロの数、手入れのしやすさなどでキッチン設備を選んで、そのキッチンでどんな家事の流れができるか想像してみてください。さきほどお話ししたように、いま使っているキッチンの便利さ・不便さを書きだしたノートやキッチンの見取り図を描いたレイアウトメモを作ってみるのもおすすめです。こうしなきゃいけないという思い込みは捨てて、自由な発想で、自分のお気に入りのキッチンを実現してくださいね。
柳沢さんのアドバイスを伺っていると、いますぐにでもお片付けしたくなってきました。
新しくマンションを購入される方は、「1軍・2軍・3軍」ルールでモノを取捨選択したり、不要なモノを処分したりするには、引っ越しがよい機会です。ぜひ、理想のキッチンづくりを考えてみてください。
エッセイストとして主婦として、忙しくし働きつつも、素敵な暮らしをキープし続ける柳沢さん。
本書は、愛用の食材や保存食、キッチンの整理や収納方法など、日々の何気ないごはんを通して、食への考え方やコツを紹介しているオススメの一冊です。
エッセイスト、整理収納アドバイザー。暮らしにまつわる著書多数。ファッションと美味しいものが好きで、収納好きが高じて、整理収納アドバイザー1級の資格を取得。手間をかけずにすっきり見える収納法を日々研究中。暮らしにまつわる著書、雑誌への連載など多数。
昨年3月に発売された『今より少しだけきちんと 大人のひとり暮らし』(大和書房)は、ひとり暮らしだけでなく、忙しい女性に幅広く読まれている、上質な暮らしのアイデア集となっている。こちらの著書も、新しくマンションでの暮らしづくりを考える役に立つはず!
公式HP『ふらりふらり帖』
記事監修:柳沢小実
取材内容は2016年6月28日現在のもので変更になる可能性があります