健康の衰えや伴侶との死別をきっかけに、長年住み慣れた一戸建てや、それまで家族で住んでいた広いマンションから、コンパクトなマンションへ住み替えるシニア世代が増えています。シニアライフを健やかに楽しく過ごすためには、どんなポイントでマンションを選べばよいのでしょうか?
長年にわたりシニアの住み替え相談を行っているアドバイザーの方にお話を伺いました。
最近の相談は80歳代が増加!しかしもっと早いうちの住み替えがおすすめ!
シニアの暮らしの研究所岡本弘子さんは、これまでに1万件以上の有料老人ホームや高齢者住宅選びの相談・紹介業務に携わってこられました。
相談のなかで、まだ老人ホームや高齢者住宅に住むまでもない健康なシニアの方には、親戚や子どもの家に近く、安全な環境を確保したマンションへの住み替えもおすすめしているそうです。その理由や、最近のシニアの相談から見えてきた老後意識の変革や、シニアライフを楽しむための住み替え術についてアドバイスをいただきました。
岡本さんは、長年シニアの住み替え相談に関わってこられましたが、最近のシニアの動向で何か気付いたことはありますか?
岡本さんシニアと呼ぶ年齢の定義が変わってきた気がしますね。これまでは、定年後65歳以上をシニアと定義づけてきましたが、健康な60〜70歳代の方々には自分たちがシニアであるという意識はあまりありません。「まだまだ十分自立して生活していける」という自信をお持ちでイキイキと暮らしている方も多いですね。
たとえばシニアの住み替え相談セミナーを開催すると、来場者の多くが80歳代の方々です。80歳代になってようやく、精神的にも体力的にもシニアという意識が芽生え、本格的に老後の暮らしを検討されるのではないでしょうか?
しかし岡本さんは、体力的に衰えが出はじめる80歳になってから住み替えを考えるのでは遅いと指摘します。
岡本さん足腰が悪くなったり病気になったり、具合が悪くなってから住み替えを考えるのではなく、健康なうちに、古い一戸建てから安全な住まいへ住み替えることが、実はその後のシニアライフを大きく変えます。
シニア女性の転倒骨折は、自宅で起こることが多いという統計もあります。骨折から寝たきりへ一気に進んでしまう方も多いものです。「年をとったからつまづきやすいのはあたりまえ」ではなく、「シニアの視点で安全な生活の見直しをするのがあたりまえ」になってほしいですね。
健康寿命も伸びました。老後も安全に暮らせる住まいへの住み替えを考えれば、死ぬまで健やかに暮らせる可能性もあるのです。住まいの安全性について、皆さんがもっとさまざまな視点から見直していただければよいですね。
岡本さんは、シニアの安全な暮らしのためにもマンション暮らしをおすすめされています。そのメリットは、以下の3つの安全性が確保されていることにあると言います。
また躯体が強固であることも、災害時には安心。
岡本さんマンションは、こうした3つの安全が確保されている点でシニアにとっては安心です。古い一戸建てに住んでいると、いくらご近所付き合いがあっても、バリアフリー、防犯、防災の点で不安があります。また、賃貸マンションよりも分譲マンションの方が、管理組合によるシニアのサポートや、多世代交流が活発な傾向にありますね。
最近は、ターミナル駅に近く、バリアフリーに配慮された分譲マンションを即金で購入する60〜70歳代のシニアの方も多いようです。シニアがマンションへの住み替えを考える上で、どんな条件のマンションを選べばよいのでしょうか?
岡本さん高齢になるほど、ターミナル駅に近い便利なロケーションのマンションを選ばれるといいですね。買い物する場所、銀行、そしてシニアには病院が近いということも大切です。比較して選べるくらい病院の数が多いエリアだと、なおよいですね。
シニアは、足腰に衰えがくると家に閉じこもりがちになります。便利な駅前であれば、外出の機会も増え、刺激も増えて、心身共にいい影響を与えてくれるはずです。
家族や親戚の近くに住む、「近居」がおすすめ!
岡本さんこれは老人ホームや高齢者住宅を探す方にもアドバイスしているのですが、住み替え時には、お子さんやご家族、親戚、友人の近くのエリアで探すようにおすすめしています。
お子さんに面倒をかけたくないから同居したくないという方でも、家族の近くに住んでいるというだけで精神的な安心感が得られます。互いのプライベートを確保できる程度の近い距離に住むことで、行き来もしやすくなります。「近居」によって、家族同士の交流の密度が濃くなったという方々も多いですよ。
また、家族がいない方には、友達や仲間という家族をつくりましょうとアドバイスしています。
実は岡本さんご自身も、15年ほど前から90歳のお母さまと同じマンションに住む「近居」を実践されているそうです。
岡本さん父が亡くなり、持病のある母が一人暮らしになったのをきっかけに、同じマンションの違うフロアの部屋に住むようになりました。我が家は働いていて忙しく、母と生活リズムもあいませんから、同居よりもお互いに気が楽です。自分の都合で行き来できますからね。料理好きの母がお総菜をつくってお裾分けしてくれることもあります。
90歳になる母ですが、いまだに杖も必要なく社交的なタイプなので、部屋の両隣や上下階のご近所さんをはじめ、歩いて5分ほどの場所にある商店街の方も、皆さんが母のことを気にかけてくださっていてありがたいことです。手作りのバラ寿司やみかんのお裾分けなど、母の方が私たちよりご近所づきあいが活発かもしれません(笑)。
岡本さんが住むマンションは、15棟ほどのマンションで構成された大規模開発エリア。敷地内には、クリニックや介護事業所、ショッピングセンターがあり、生活に便利なロケーションであることも、90歳のお母さまの暮らしによい効果を与えているようです。
住み替えのタイミングを客観的に判断することも大切
「シニアの住み替えは早ければ早いほどよい」とアドバイスされても、適切なタイミングを知ることは難しいかもしれません。岡本さんは、自分の状況を客観的に判断してもらうために、5つの項目で状況を評価するペンタグラムを使って考えてもらうようにしています。
老後の生活に必要な5つの項目を評価するペンタグラムで、現在の自分の状況に何が不足しているのかを判断します。すべての項目が5評価と高ければ、それだけ自宅で長く暮らせることにつながります。
(資料提供:シニアの暮らし研究所)
岡本さん老後に必要な5つの項目「①自宅形態②生活環境③医療・介護環境④家族事情⑤資金状況」を、5段階で評価してペンタグラム化することで、いまの自分に何が不足しているのかということに気付き、状況を解決するためにどうしたらよいか考えていただくことができます。
たとえば「①自宅形態」がバリアフリーではないなど評価が低ければ、早期にリフォームやマンションへの住み替えを検討する。「②生活環境」や「③医療・介護環境」の評価が低ければ、もっといい場所へ住み替えを考える。
5項目の評価がまんべんなく3程度であれば、おそらくお元気なうちは現状のままでも大きな問題もなく暮らせますが、日常的に支援や介護が必要な状態になってくると、生活しにくくなると予想できます。ただ、資金的には民間の介護型高齢者住宅などに住み替えが可能な所得層なので、できれば支援や介護認定が軽度なうちに住み替えなどの対策を進めたほうがよいかもしれません。
このように、5軸のペンタグラムは、いまの自分に不足しているものに気付き、次にどう行動するべきかの指針にします。
こうして客観的に判断することで、自分の老後の生活に必要な要素を洗い出すことにもつながります。このペンタグラムは、老後の暮らしを現実的に考えるためにも40〜50代からつくり始めてもよさそうですね。
※ペンタグラムの各項目の評価基準などの詳細についてご興味をお持ちの方は、シニアの暮らし研究所(http://shinia-kurashi.jp)へお問い合わせください。
「もっと早く住み替えればよかった!」という声も。住み替え成功例。
岡本さんマンションのメリットは、さきほどの3つの安全性だけでなく、集住のメリットを共有できることにもあります。エレベーターで一緒になるだけでも、声をかけあえますし。
また、60〜70代のリタイアしたシニアが地域にデビューする傾向も増えています。マンションの管理組合や地域活動の核を担って、自分たちの将来は自分たちでつくりだすという、意識の高いシニアも多いですよ。
昔から住んできた古いお家に愛着があってなかなか住み替えの決断ができなかった75歳の女性が、膝が悪くなって庭仕事ができなくなったことからマンションに住み替えされました。住んでみたら、一戸建てのときのように庭仕事や家まわりの掃除もしなくてよくなって、「もっと早くに住み替えればよかったわ」とおっしゃっていました。シニアの場合、ふだんの生活の負担が軽くなるだけでも、とても元気になる方が大勢いらっしゃいます。
岡本さんによると、寿命が伸びてシニアライフが拡大している現代では、2段階の住み替えが確実に増えてきたそうです。
岡本さんシニアの住み替え1段階目が、住環境的に住みづらくなった一戸建てからマンションへの住み替え。2段階目が、いよいよ自立して住めなくなった場合の、老人ホームや高齢者住宅などの専用施設への住み替えです。
けれど健康意識が高くなった最近では、寝たきりになってしまう人は一部で、健康なまま1段階目に住み替えたマンションを終の棲家と考えるシニアも多くなっています。
介護や食事の配達など、地域のシニア向けサービスをうまく活用すれば、最後のときを迎えるまで、自分らしく自立して生きていけると思います。寝たきりになったときの世話を心配するのではなく、シニアライフを楽しむために住み替えを考えるのが、最近のシニアの傾向ですね。
できれば、住みなれた自分の住まいで最後のときを迎えたい。それは誰もが願うことです。その願いを実現するためにも、より健康により楽しく暮らすための住み替えを考えてみたいものです。
取材内容は2016年3月23日現在のもので変更になる可能性があります