阪神電車を芦屋駅で降り、北側へひとつ道を渡れば、静かな街並みに溶け込むように佇む「アンリ・シャルパンティエ」本店。洗練されたデザートや焼き菓子で名高い洋菓子店の始まりは1969年、この芦屋の一角からである。
通りを眺める大きな窓は、創業当時からの特長。明るい店内にはスイーツを前に談笑するご婦人たちの姿も見られる。
ショーケースに並ぶ数々のケーキに目移りするものの、本店を訪れたならぜひ食したいのがクレープ・シュゼット。西日本では、ここ本店と「メゾンアンリ・シャルパンティエ」でしか味わえない一皿だ。フライパンで温めながら何度も何度もオレンジ果汁とバターをベースにしたソースに浸し、青い炎とともに目の前でフランベされるクレープ。真っ白な皿の上、深いオレンジ色のソースとともに出される温かいデザートは、柑橘系の香りが豊かで、ほろ苦さの残る大人の味だ。
聞けばレシピも、その味わいも、創業当時から何一つ変わらないという。きっと当時の芦屋婦人たちも、この特別なデザートに心ときめいたことだろう。
店名の「アンリ・シャルパンティエ」は、19世紀、このクレープ・シュゼットを生み出した料理人の名に由来する。昭和40年代半ば、デザート専門店などなかった時代に、本物のデザートが食べられる店を出そう、と創業者が意を決してつけた名前である。
芦屋川を背に2号線沿いを東へ進むと見えてくる「PATISSERIE BOULANGERIE FRANCAISE」の緑の文字が入った白いテント。フランスからやってきたオーナーのビゴ氏が、本物のフランスパンのおいしさを真摯に守り続けてきた「ビゴの店」だ。
定番のバケットをはじめ70から80種類はあるパンが並ぶ店内は、焼きたてのパンの香りで満ちている。併設された工房で、休む間もなく働いている職人たち。次々に売れていくパンをあらたに焼き上げるためだ。
「ビゴの店」の売れ筋は、やはりフランスパン。菓子パンも人気があるが、それでもフランスパンが全体の6割強も売れている。小麦の味がしっかりしているパンは、近隣の住人が毎日の主食用にと買っていく。
フランスパンだけでも焼く本数は1日に200から300本。クリスマスなどは家庭のディナー用に購入が増え、通常の5、6倍焼いても売り切れるのだとか。
ここのフランスパンは気泡が大きいのが特長。皮はパリっと焼き上がり、中はふんわりやわらかい。噛むほどに味わいも深まる。
パンの製法は、創業当時から30年以上、何も変わっていないという「ビゴの店」のパン。時代を超えて残るものはいつだって本物だけだと納得させる、フランスパンの名店である。