Vol.14プロが語るマンションの今 ~7社ならではの取り組み~
マンションやビルなどの開発は、建物が完成すれば終了、ではありません。
特に大手不動産会社は、これまで培ってきた経験やノウハウ、多種多様なネットワーク、長期間の投資に耐えうる財務力を持ち、そのリソースを生かし、様々な特筆すべき取り組みを長い時間をかけて行っています。
今回は各社の手掛ける取り組みの中から、「建て替えプロジェクト」「経験が培う先進性」「充実するオーナーサポート」についてご紹介します。
プロフィール
【住宅アドバイザー】
高江 啓幸
(たかえ よしゆき)
都心の再開発事業が盛んになったのは90年代後半からでしょうか。オフィスやホテル・商業施設など、次々と大規模施設が完成し、現在も様々なプロジェクトが進行また計画されています。いざ完成してしまうと従前の街の良かった部分の記憶だけが残り、「昔の方が良かった」と嘆く方もいるかもしれません。しかし東京という限られた土地の中での都市機能を存分に活用していくためには、必要な事業であるとも言えます。【泉ガーデン】もまた、都心の再開発事業として誕生した複合施設。住友不動産の手掛ける都心開発事業はオフィスビルと住宅の組み合わせが多く、エリアに職・住ふたつの需要を創造します。そして飲食やフィットネスなどの商業施設も併設し、働く人・暮らす人の利便性にこたえる施設づくりが行われています。
計画への着手は昭和の終わり。1999年の着工までが10年余、3年後の2002年竣工。注目すべきは計画時期がバブル絶頂期ということ。バブル崩壊後の景気の変調によって大掛かりな投資を伴う開発計画が多数頓挫する中、着実に事業を進めることができた資本力・推進力は大手ならではと言ってよいでしょう。また従前のこのエリアはごちゃごちゃとした場所で地権者などの権利が入り組み、相当骨の折れる交渉が必要だったことは想像に難くありませんし、開発エリア内は起伏に飛んだ複雑な地形で、どんな施設にするか技術的にも難しい開発でもあったそうです。このように計画から完成までゆうに10年を超えるような長い期間に耐え得る人的・物理的リソース、そして莫大な資本投下とバブル崩壊のような景気変動にも動じない財務力、大手不動産会社の存在は都市の発展の推進力となっていると言えます。
近年「スマートシティ」なる言葉を見聞きされた方も多いと思います。日本のみならず世界的に取り組みが行われている“都市づくり・街づくり”の最新版と言っても良いかもしれません。簡単に言えば、ITをはじめとする先端技術を駆使して都市全体で電力の有効利用を図り、省エネルギー化を実現する環境共生都市ということになります。もちろん一朝一夕に出来上がるものではありません。多くが壮大なスケールとなる街づくりですから、様々な企業・自治体などが連携した仕組みづくりが必要なのは言うまでもなく、そこに暮らし・集う人たちの「スマートシティ」に対する理解も不可欠でしょう。私たちの身近で実際に行われている「スマートシティ」への取り組みは、三井不動産の手掛ける【柏の葉キャンパス】があります。
つくばエクスプレス「柏の葉キャンパス駅」を降りてみると、駅前からショッピングモール・住宅・ホテル・病院・大学など様々な施設が並んでいます。まさしく産・学・官が一体となって街づくりに取り組んでいる様子が一目瞭然といった印象で、少し前までこの地がゴルフ場であったことなど微塵も感じさせないほどです。また街を歩く人の多様性にも驚かされます。郊外のニュータウンなどにありがちなファミリー世帯ばかりが目立つようなこともなく、企業や研究所などで働く人、大学などで学ぶ人などもたくさん集っています。これは三井不動産が単に自らの企業としての利益追求という枠にとどまらず「スマートシティ」という社会的要請が高い事業を推進し持続可能なものにするため、専門分野を超えた様々な企業や自治体そして大学などをうまく巻き込んだからこそ実現した街づくりと言えるでしょう。
技術の進歩は私たちの生活を快適に、そして便利にしてきたことは間違いないでしょう。そんな生活に慣れた私たちには、もしエアコンや扇風機・ヒーターなどが無くなってしまったら、寒暖のある日本での生活は耐え難いものになるかもしれません。しかしその一方で、過度なエネルギー消費の問題を引き起こし、ひいてはCO2排出に代表される環境問題が懸念される事態にもなり、「低炭素社会の実現」は待った無しの状態です。では個々の住まい、とりわけマンションにおいてそんなことが可能なのか。その命題に取り組み、ひとつのカタチを提案しているのが大京の「新・パッシブデザイン」です。「パッシブデザイン」とは、電化製品などに依存せず建物の構造や材料などの工夫で熱や空気の流れをコントロールし、快適な室内環境をつくりだす手法のことです。
【ライオンズ田無セントマークス】に導入された「新・パッシブデザイン」の大きな特徴は、マンション一室の各所に設けられた仕組みによって、夏季に外出した際に室内にこもってしまう熱気を軽減する効果が得られるということです。一般的な住宅と比較して、7月下旬の室内の平均気温で4.9℃も下げる効果があるとのこと。また都市生活ではなかなか窓を全開にしての換気は難しいですが、一定の「風の通り道」を設けることで、全開以上の換気効果を得ることができます。そしてもちろん、それらは全て電気機器などを利用する仕組みではないので、大幅な電力使用量の削減が可能になります。小さな創意工夫かもしれませんが、直接的に住まいづくりに必要がないことでも、社会問題化している事象に真摯に取り組み、またそれを実現する推進力を感じずにはいられない事例です。