第2回 芦屋、百年の時を過ぎてもその憧憬は変わらない

芦屋の住人の心に流れる、静かなせせらぎ

水の気配を感じながら、のんびりと川沿いの道を歩く。気の向くままふらっと立ち寄ることができる、癒しの場所は、日々の暮らしにゆとりをもたらす。

芦屋川は全長が6キロメートル余りの、市内では最大級の河川。山手から下っていくと、移り変わる景色も楽しい。阪急芦屋川駅から大正橋あたりは、輸入おもちゃ店や評判のケーキ店、レストランが点在する。川を挟んだ両岸の道は、車の通りも多くはなく静かだ。そのまま南下していくと、河原の遊歩道に降りられる。朝夕の時刻なら、犬の散歩やウォーキングをしている人にも出会うだろう。春には両岸に桜が咲き誇り、阪神間でも桜の名所として有名。夏には河原でバーベキューを楽しむ人や、水遊びにはしゃぐ子どもたちの姿もよく目にする。

写真:阪急芦屋川駅付近
阪急芦屋川駅付近 山手にはヨドコウ迎賓館も見える

芦屋川は、川床がまわりの平地よりも高くなっている珍しい天井川だ。阪急、阪神線は、川の上に橋を渡して線路を敷いているが、JR線だけはトンネルを設け、川の下を電車が通過する。平地側から芦屋川をめざして歩いていくと、川に沿って、土地が小高くなっているのがわかるだろう。

業平橋を越えるあたりから、両岸は松の木が並びはじめる。「芦屋川松風通り」と名付けられたこの道沿いには教会なども見られ、落ち着いた雰囲気だ。さらに南下し、43号線を越えると、松林が続く芦屋公園に出る。このあたりまでくると、芦屋市谷崎潤一郎記念館も近い。

かつて谷崎潤一郎が、小説「細雪」に描いた頃と街並みは変わっても、静かな流れは変わらずに芦屋の人々の心を癒している。

写真:閑静な芦屋の住宅街
閑静な芦屋の住宅街

すこやかな成長への願いにあふれたおもちゃたち

川沿いを歩いていると風にのってしゃぼん玉が飛んできた。赤い煉瓦タイルのおもちゃ屋の店先で、おもちゃの看板ぐまが、ゆっくりした動作でしゃぼん玉を吹いていた。

おもちゃのお店「Suomi(スオミ)」は、ドイツ、スイス、フィンランドなどヨーロッパのおもちゃがあふれている。

「Suomi」はフィンランド語で、フィンランドの意味。子どもたちのために、自然素材のものを取り扱いたいという想いで、森や湖の自然に恵まれた国の名を、店名にした。オーナーがおもちゃを選ぶ基準は「シンプルで、子どもが自分で工夫して遊ぶ余地があるもの」。芦屋川に面した大きな窓辺には、子どもたちが店内で自由に遊べるようにおもちゃが並んでいる。

写真:Suomi(スオミ)の木製の動物や人形
大人が見ても欲しくなる木製の動物や人形

1971年の開店当時はまだ輸入おもちゃ専門店などなかった時代。子どもが興味を持ってつかんだり、振ったり、遊びながら考え、成長できるような本当にいいおもちゃに触れてほしいという願いから「Suomi」ははじまった。店内のおもちゃは、その大半が木製だ。

一つひとつ丁寧に作られた木製のおもちゃは、子ども用とはいえ温もりあるデザインに愛着も湧く。子どもが成長しても大切にとっておく人も多く、親子2代で使っている人もいるそうだ。

修理も可能なものなら受け付けるという「Suomi」。ちなみに看板ぐまは何度も壊れては修理をくり返し、もう20年以上も店先でしゃぼん玉を吹いている。

写真:スイスNAEF社の「キーナーモザイク」
スイスNAEF社の「キーナーモザイク」
遊びながら色のセンスも身に付く
写真:Suomi(スオミ)の店先
右端が、おもちゃの看板ぐま
顔つきもなかなか愛らしい

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