目黒川沿いを散策しながら池尻方面へ足を延ばす。菅刈公園下まであと少しといったあたりで一本裏の通りに入ると、小さな看板が見つかる。細い通路を奥へ進むと、緑の木々に囲まれた「青家(AOYA)」が現れる。築36年の古民家を改装したお店は、まるで田舎の一軒家を訪れたような佇まい。内装は、柱を残してすべて改装しているというが、郷愁を誘う趣は古民家そのまま。
静かな時が流れる店内でいただくのは、京のおばんざい。1日10食限定の「京のおばんざいSet」は、京野菜や旬の食材を使ったおばんざい3品にメイン、ご飯、味噌汁、平日は飲み物つきの人気メニュー。厨房で腕を振るうのは女性料理人、青山有紀さん。実家は京都の料亭で、「『ただ食べていれば味は体に残るから』というのが母の持論。料理は教えてもらったというより、食べて覚えました」。確かな味を受け継ぎ、実家がある京都御苑近くの雰囲気に似た青葉台で再現している。
もう一品、おばんざいの店で少し異質な「青家辛鍋Set」がある。「祖父が韓国出身で、京料理と韓国料理が一緒にある家庭だったんです」と青山さん。土鍋や無農薬の唐辛子は韓国で買いつけ、味噌やだしは京都のものを使った京風アレンジ。上質な和牛をメインにとったコラーゲンたっぷりのスープは、濃厚な旨味がつまったおいしさだ。食事も和スイーツもどれも手間ひまかけてつくりあげた京の家庭の味。素朴な味に、ほっと落ち着くいい店だ。
目黒銀座商店街をまっすぐ、少し駅から離れたところだが、女性客であふれ行列ができているので、すぐにその店だとわかる。「パティスリー ポタジエ」は、日本初のオーガニック野菜を使ったスイーツの専門店だ。ゴボーショコラ、玉ねぎシフォン、アボカドレアチーズ……とケーキの名前を並べるだけで、味を想像してワクワクしてくる。たとえば、普通のショートケーキが、小松菜を練りこんだスポンジにトマトがサンドされ、イチゴのかわりにプチトマトがのった緑色のケーキになる。トマトと生クリームの相性といい、野菜がこんなにケーキの味を際立たせるとは驚きだ。ヘルシーで栄養たっぷりの野菜スイーツは、ケーキは好きだけどカロリーが気になる女性たちの心をつかみ、一躍評判となった。
野菜スイーツの第一人者、オーナーパティシエの柿沢安耶さんが掲げる店のコンセプトは「ケーキを通して野菜をおいしく味わっていただくこと」。そのためには季節の野菜を使う。旬のものでないと味も栄養も全然違うからだ。また、時季のものを使うことで食べる人に旬を感じてもらえる。さらに、農業や食育についても重要視している。その意識は従業員全員が共有し、野菜スイーツを通して多くの人に伝えていきたいという。
駅から徒歩7分と比較的遠いが、地元はもちろん遠方からわざわざこの店を目指して来る人が多い。今では、若い人からお年寄りまで幅広い年齢層が訪れ、商店街を活気づけている。中目黒で新進気鋭のパティスリーだ。